旧宿場町がたどった“その後の運命”

 結局、東海道線の神奈川駅に続いて東急線神奈川駅も1950年に廃止されてしまう。横浜駅まで目と鼻の先なのだから、わざわざ駅を置いておく必然性に乏しいということだろう。

 そうしてただひとつ、京急線の神奈川駅だけがいまに残っているのである。

 

 近代以降の横浜は、国際港を抱える港湾都市として発展した。だから、そこにあって旧宿場町という存在に過ぎない神奈川が横浜に飲み込まれてゆくのもムリない話だ。

ADVERTISEMENT

 とはいえ、開港前には寒村だった横浜にしてみれば、宿場町の繁栄を謳歌していた神奈川を抜き去り飲み込んだ、いわば主従逆転、下剋上。神奈川の一部が横浜だったのに、いつしか横浜の一部が神奈川になってしまった。

 

 それでも、いまも神奈川駅のすぐ近くには宿場町の面影がかろうじて残っている。それは、完全には“横浜”に飲み込まれなかった、古き宿場町の誇りとでもいうべきか。

 
 

 ちなみに、同じように主従が逆転してしまったのが、兵庫県の神戸市だ。もとは兵庫が中心で、でも神戸が開港して立場が入れ替わり……。このお話は、今度兵庫駅を訪れた時にでもするとしよう。

撮影=鼠入昌史

◆◆◆

「文春オンライン」スタートから続く人気鉄道・紀行連載がいよいよ書籍化!

 250駅以上訪ねてきた著者の「いま絶対に読みたい30駅」には何がある? 名前はよく聞くけれど、降りたことはない通勤電車の終着駅。どの駅も小1時間ほど歩いていれば、「埋もれていた日本の150年」がそれぞれの角度で見えてくる——。

 定期代+数百円の小旅行が詰まった、“つい乗り過ごしたくなる”1冊。

ナゾの終着駅 (文春新書)

鼠入 昌史
文藝春秋
2025年3月19日 発売

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。

次のページ 写真ページはこちら