ただ「押す」だけではない…押し屋の明かす“意外な仕事内容”

 勤務時間は短いが、「押し」だけが仕事ではない。メインの業務は大きく三つ。電車の監視とホーム上の安全確保、そして押し。

 基本動作はこうだ。まずはホームで電車を待つ客の列を整理し、「危ないのでホームの端を歩かないでください」などと声をかける。

 電車が駅に近づくと、線路上を指さしながら異変がないかをチェック。停車してドアが開いたタイミングでドア横に移動し、客の乗降が終わったら「ドアが閉まりまーす」と言いながら無事に閉まるのを見届ける。乗り切れなそうな場合には押しが必要となる。

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 ドア横にある「側灯」と呼ばれるランプが消えたかどうかを指さし確認し、電車が離れたら再び線路上を指さし確認。再びホームの列を整理する。

首都圏のダイヤは分刻み。押し屋たちにも迅速な対応が求められる。(写真:HiLens/イメージマート)

 混み具合によっては2、3人がかりで押し込み役とドアを押さえて閉める役をこなす。「痛い痛い」「押すなよ」「(他の客に)もっと下がれ」などといった怒号が飛び交うこともざら。「どう考えてももう乗れないだろ」というタイミングで駆け込もうとする“猛者”もおり、その場合は「剝がし屋」になるという。

ダイヤ乱れで「なんとかしろ」と迫られることも

 大変なのは押しだけではない。ラッシュ時に人身事故などでダイヤが乱れた際は一気に過酷さが増す。目的地に急ぐ人たちから「いつ動くんだ」「どうやって行けばいいんだ」と詰められる。答えられなければ「なんで分からないんだ」とさらに責められる。間違っても「スマホで調べれば分かるでしょ」などと口にしてはならない。

 中には「なんとかしろ」とむちゃな要求をしてくる客もいるが、「申し訳ありません」とひたすら謝るしかない。

 乗り継ぎや振り替え輸送などを正確に案内するため、押し屋はまず勤務する駅を走る路線すべての駅名を覚えさせられるという。いくら採用時に知識不問と言っても、東京駅や新宿駅は避けたいところだ。

 佐藤さんは「人身事故に限らず、非常停止ボタンが押されれば周辺の路線が一斉に止まります。乗り換えを案内するために、周辺の路線も自習しました」と明かす。

 ちなみに、ゴールデンウイークやお盆、年末年始の繁忙期には東京駅に派遣され、新幹線自由席の前に立つこともあるんだとか。佐藤さんは、列に並ぶ小さな子どもに新幹線のシールを配っていたという。

 原則、押し屋の守備範囲はホーム上のみ。線路内は必ずJR社員が担当する。非常停止ボタンは「危ないと思ったら押して」「ちゅうちょなく電車を止めて」と指導され、警察や救急車を呼ぶかどうかの判断は社員がする。