「いつ突き落とされるか分からない…」命の危険を感じた瞬間

 押し屋を悩ませるのが、異性の体に接触せざるを得ないことだ。通称「ハクテ」と呼んでいる白手袋を着けているとはいえ、「わいせつ行為だ」と非難されるリスクはある。かと言って、押しを遠慮して電車を遅らせるわけにもいかない。

 岡野さんがコツを解説する。

「女性の体には触らないように気をつけています。その上で、荷物を押すか、手ではなく肩で押します。これは先輩から教わりました」

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 さらに、緊張感を持ち続けなければならないこともあるという。

 押し屋の立ち位置は基本、点字ブロックからはみ出ないぎりぎり。「いつ突き飛ばされて、線路に落下するか分からないという恐怖があります。そのため、常にホーム側の片足に重心を置き、いつでも踏ん張れるようにしているんです」と岡野さん。

黄色い線のギリギリ内側が押し屋の定位置だ。(写真:moonmoon/イメージマート)

 ホームの端を歩く客に注意したところ、無言で体当たりされたことも複数回あったという。

「押し」でも思わぬ危険がつきまとう。

 ドアを抑えながら押し込んでいる時に、別の場所でドアにものや人が挟まった際に、車掌が突然ドアを開ける操作をすることがある。もし指が戸袋方向を向いていると、手が吸い込まれてしまう。実際、他の駅では押し屋が指を骨折したケースもあったという。対策として、戸袋側には決して指を向けないようにしている。