財布?靴? すぐに拾ってもらえる落とし物は…

 続いては落とし物の話題。混雑時にはもみくちゃになりながら、線路に落とし物をしてしまう人も多い。Suica(スイカ)やPASMO(パスモ)などの交通系ICカード、財布、スマホ、イヤホン……。中にはかばんや靴、サンダルを落とすケースもあるという。

駅は落とし物の危険ゾーン。改札を出る瞬間まで油断は禁物だ。(写真:cap10hk/イメージマート)

 ちなみに、線路内の落とし物を拾うのは必ず社員とJRの内規で決まっている。

 では、真っ先に拾ってもらえるものは何か。佐藤さんも岡野さんも口をそろえてこう言う。「切符や、Suicaなどの交通系ICカードです」。なぜなのか。

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 Suicaがなければ目的地に着いても外に出られなくなるからだ。場合によっては電車を止めてでも拾うことがあるという。

 最近、一番多いのがイヤホンの片方。小さくて見つけにくく、終電後の捜索になる。そのため、持ち主も諦めることが多いという。ハンカチや傘などはラッシュ時間帯を過ぎてから拾って、帰宅時に渡している。

 佐藤さんが驚いたのが、女性客のサンダルが脱げ落ちてしまった際のことだ。出場に影響はないとはいえ、さすがに裸足で出勤させるわけにもいかない。社員に連絡すると、サンダルを拾うことなく駅事務室へ。実は駅事務室には予備のサンダルやスニーカーが用意されているのだ。

「5セットくらいはありました。ぼろぼろのクロックスや黒いスニーカーで、なるべく足のサイズに合うものを渡しました。女性にはぶかぶかでしたけど……」(佐藤さん)

 岡野さんによると、拾う優先順位は、切符やSuica(モバイルSuicaの場合はスマホも)→財布やスマホ→それ以外。つまり、Suica機能の有無でスマホは優先回収されるか、後回しとなって帰宅時に渡されるかが決まるのだ。なんとも鉄道会社らしいではないか。

岡野さんが職場に求めること

 朝のスキマ時間のアルバイトとして人気の押し屋だが、岡野さんには改善してほしいこともあるという。

「まず押し屋にはマニュアルがありません。アルバイトの『口伝』なんです。お客さまの安全を預かる上で、それでいいのかと思います」(岡野さん)

 また、JR社員の中には「乗り継ぎや電車の遅れを案内する際に、ろくに確認もせずに間違った情報を伝える人や、ダイヤ乱れの際に絶対に謝らない人もいます。確かにJRに原因や責任がないケースもありますが、僕らはひたすら頭を下げているのに……」とも打ち明ける。

押し屋の正式名称は“テンポラリースタッフ”。業務内容も社員とは異なる。

 最後にお客さんへの要望を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「運行の問題や駅設備に対する不満はカスタマーサポート窓口に言ってください。僕らアルバイト風情に何を言っても解決しません」(岡野さん)

 くれぐれもカスハラはやめましょう。

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