岡野さんによると、客同士のトラブルでもっとも多いのが「列の横入り」。次に「痴漢の申告」。そして「女性専用車両に男性がいる」、「足を踏まれた」、「ぶつかった」……。
最悪なのは、痴漢を疑われた人が線路に降りて逃走した場合だ。非常停止ボタンが押されるのは言うまでもないが、身柄が確保されるまで運行がストップする。実際、昨年5月には新宿駅で線路に降りたまま行方不明になる事案が発生。新宿を発着するすべてのJRが長時間止まり、影響はすべての路線の駅にまで広がったのだ。
岡野さんによると、押し屋をしている駅にはほぼ毎日、私服警官が現れ、駅事務室で防犯カメラのチェックをしていくという。この国はどれだけ痴漢が多いのだろうか。
押し屋は「女性専用車両に近づかない…」その理由とは?
苦労の絶えない押し屋だが、先輩から語り継がれている教えがある。それが「女性専用車両には近づくな」だ。しかも男女問わずだという。
女性専用車両は、都市部の鉄道で通勤時間帯に適用される。当然、痴漢防止が目的だ。
昨春まで押し屋をしていた佐藤遥香さん(仮名、20代)によれば、目の前で女性同士のつかみ合いのけんかが始まったこともあり、最後は警察が呼ばれる事態になったという。
だが、押し屋が女性専用車両に近づかない最大の理由は「わざと乗ろうとする男性客」にあるという。鉄道会社にとって悩ましい問題だ。佐藤さんによると、「間違ってなのか、わざとなのかは分かりませんが、その男性客を止めるのは必ず社員が対応する決まりになっています」。
「男性が乗ってはいけないわけではなく、あくまで任意のお願いです」。そのため、わざとトラブルを誘発してその様子を動画に撮り、SNSなどにアップする集団もいるという。
女性専用車両の是非はともかく、現役押し屋の岡野さんが付け加える。
「最近は何かあればすぐに私たちにスマホを向けて撮影しようとする客もいます。実際、他の駅では撮影動画がSNSにアップされたこともあります。それを受けて、そういった場合にはすぐに名札を隠すように会社から指示がありました」
