「それって台湾と関係あるんですか?」

 特に軍隊(以下「國軍」)は、1924年に中国広東省で建軍され、その後に日中戦争と国共内戦を戦って……という組織のルーツを保ち続けている。中国全土を描いたマークや戦旗を用いる部隊(海軍陸戦隊など)や、かつての独裁政権時代の指導者名に由来する軍用機(蒋経国にちなんだ経国号)も現役で運用されている。

 なので、中華民国国家や國軍としては、自分たちの組織の過去の勝利を祝う必要がある。そこで毎年開かれているイベントのひとつが、抗日戦争の勝利を記念するミュージカルショーだ。今年の名称が「第二次大戦記念および抗戦争勝利80週年音楽会」であることはすでに書いた。

会場はやはり高齢者比率が高い。国防部のイベントだけに退役軍人が多そうだ。 ©︎安田峰俊

 私はこの夏、全然別の用事である台湾チアガールの取材(他の記事で書く)で現地に行った。そちらで彼女たちを紹介してもらった人たちのなかに、たまたま軍関係や外省人のルーツがある人がいた。そこでこの音楽会に招待してもらったのである。

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 カバンにちいかわのぬいぐるみをくっつけたコスプレイヤーで「水の呼吸!」とか日本語で言ってしまう素敵なチアガールの女の子(もちろん政治的背景はゼロ)に話を聞いた同日夜に、国防部主催の抗日イベントに出席だ。よせばいいのに、例の紹介者が彼女に「僕らはこれから抗日記念音楽会に行くんだ」と話したので、チアガールはドン引きしていた。

「あのー。それって……? 私たち台湾と関係? あるんですか???」

 まあそう言いたくなるだろう。自国の国防部のイベントなのにこの反応。それも台湾のリアルだ。

イベント会場に潜入すると…

 8月21日夜。ほぼ1000人規模の会場は満員だった。国防部主催なので、会場の案内係には軍服の人が混じっている。来ている人もやはり外省人の高齢退役軍人が多い印象で、あちこちで敬礼し合っている。わたしが一緒に来た、ミャンマーの中緬国境で1970年代まで中国共産党側と戦っていた特殊部隊の老兵のおじいさんたちも、友だちに会ってニコニコしている。

 彼らにしてみれば、このイベントは年に一度、昔の知り合いに会える貴重な場でもあるのだろう。いっぽう、会場にはそれなりに若い人や親子連れもいる。台湾の選挙の際の国民党の集会(老人と、連れられてきた孫しかいない)と比較すると、やや平均年齢は若そうだ。

準備されていたグッズ。爆上げでいくぜ。 ©︎安田峰俊

 座席には主催側が用意した中華民国国旗の手旗と、しっかりした紙で作られたパンフレット。さらに「抗戦80週年」と書かれたコンサートライト。後に判明したがけっこうハイテクな作りで、こちらがスイッチを押しても点灯しないのだが、主催側がオンにすると席やシーンごとに違う色のライトがついて会場の一体感を生む。すごい。