やっと「日本」の名前が表示されたが…
もっとも、その後に玖壹壹が歌った「世界都看見」(All Eyes On Me)はカッコよく、じいさんも含めて喜んでいた。もとは2023年WBCのチャイニーズ・タイペイ(台湾)代表チームのテーマソングだった曲で、それに合わせて國軍のミサイルや揚陸艦、兵士の訓練がMV風に登場する。
世界に挑戦する野球チームの応援歌という健全なナショナリズムと、間違っても他国の侵略なんかしそうにない(※侵略されることはあり得る)ゆるくて平和なムードの軍隊。両者は相性がいい。私もちょっと國軍が好きになってしまったので、プロパガンダとしては成功だろう。抗日記念イベントを見に行った日本人が、イベントを主催する軍のファンになって帰ってくるという謎の現象である。
ちなみに、歴史劇中では「日本」の名前は出てこなかったが、プログラム終盤に紹介された軍の災害関連活動のなかでは、東日本震災時における台湾側からの日本支援と、昨年4月の花蓮大地震の際の日本側の台湾支援が紹介されていた。
なぜ日本にほとんど言及せず?
「むかしは、日本兵が中国兵の首を切り落とすシーンの演出があったりしたらしいけどね。いまはそうじゃない。まだ、馬英九政権(2008~2016年:国民党)のときは抗日演出を頑張っていたけれど、蔡英文政権(2016~2024年:民進党)や現在の頼清徳政権は日本を悪く言いたくないんだろうな。私もそれでいいと思うが、高齢世代の老兵には反発する人もいるかもしれない」
会場で出会った、旧知の台湾人軍事ライターはそう話す。ちなみに、イベント中でいちども、加害者として「日本」の名前が出てこなかった(震災関連の話は除く)ことは同夜のニュースでも話題になっており、事情を知る台湾人にとっても意外な事態だったようだ。
「国共内戦への言及が一切ないのも驚いたよ。異常と言っていいほど。これは例年のイベントとの大きな違いだった」
現在の民進党政権としては、大陸の中国共産党を刺激したくなかったのか、それとも共産党との戦いを「内戦」として扱うのは嫌だったのか。すくなくとも、日本への言及を極限まで減らして反日色をゼロに近い水準まで引き下げていたのは、近年の良好な日台関係を反映したものだったはずだろう。
さておき、歴史をどう解釈するかは、現在の政治的事情や為政者の都合によって大きく左右される。抗日戦争勝利を愛国プロパガンダに使う中国共産党と、逆にこの問題で日本を刺激しないように極力注意している台湾(中華民国)の民進党政権。日中戦争というひとつの歴史の解釈が、ここまで対照的な事例も珍しい。

