数カ月が経ったところで、ある法律事務所から書面が届きました。そこには、夫の代理人になったこと、これから離婚調停を申し立てる予定であることが書いてありました。
A子さんは驚きました。離婚したいわけではなく、そのうち夫と息子はタワマンに戻ってくると思っていたからです。
追って、夫が離婚を希望する理由が書かれた書面が届きました。中学受験の失敗で傷ついている息子に寄り添うどころか責める言葉を言い続け、学校生活を応援することもなく、さらに家のことや息子のことを何もしなくなってしまった。その上、家から追い出そうと留学まで持ちかけた。これでは一緒に息子を育てられない……。
A子さんは友達や実家の家族に相談しました。A子さんが受験に入れあげていたことはみんな知っていたものの、受験に失敗していることは誰にも言えていませんでした。
さらに夫と息子が出ていく事態までなっていると知って、全員が驚きました。そして、「このままだと離婚まっしぐらだと思うから、やりすぎだったと謝った方がいい」「中学受験で離婚なんてやめた方がいい」と口々に言いました。
「本当は帰ってきてほしい…」と吐露
困ったA子さんは、私の法律事務所に相談に来ました。
A子さんはこれまでの経緯を話して、弁護士からの書面も出して、「私は悪くない、離婚される筋合いはない」と言いました。
弁護士の中には、こういう相談を聞いた際に、「不倫をしたり、暴力をふるったりしていないから離婚はされない」とアドバイスをする人もいるようです。
しかし実際は違います。A子さんの息子への暴言の証拠が残っていれば離婚理由になりますし、証拠がなくても、別居から一定期間が経過していたら、裁判で離婚が認められます。
私がそのような見立てを話して、「このままだと離婚されますが、本当にそれでいいですか」と聞くと、A子さんはしばらく沈黙した後、「本当は帰ってきてほしい」と言いました。
息子のためを思っていろいろ言ってきたと思っていたけど、本当は中学受験の失敗のショックを子ども本人に押し付けていただけかもしれない。まだ割り切れていないけど、息子に対して怒りをぶつけるのはもうやめるように努力したい、だからどうか帰ってきてほしい……。