連作短編集『喫茶ガクブチ 思い出買い取ります』著者の柊サナカさんと、小説執筆のきっかけとなった額装を手掛けるギャラリー「Roonee 247 fine arts」(ルーニィ247ファインアーツ)の杉守加奈子さんが語る、額縁のこと、小説誕生の秘話、奥深い額装の世界。

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 この本は「ルーニィ」さんのおかげで出来ました。

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杉守 地味な仕事にスポットを当てて下さり、ありがとうございます。自分たちが地道にやってきたことが、こんな素敵な小説になるなんて、びっくりしました。

 私は写真が趣味なのですが、初めてグループ展で展示をすることになったとき、「額装してきてください」といきなり言われて、え、一体どうすればいいの……と。最初大きな額装店に行ったら、何人も並んでいて、「マット(厚紙の台紙)は白、額縁はこれで」「分かりました。はい次の方!」と言う感じで。どこもこういうものなのかな、と思ったんです。

 そうしたらグループ展の知り合いで、毎回とてもおしゃれな額装をしている方がいて、初めて「ルーニィ」さんのことを知りました。それ以来、額装の機会があるとまずここに来ますが、毎回加奈子さんの面白いお話を聞けるので、いつか小説にしたいなと思っていたんです。

杉守加奈子さん(左)と柊サナカさん。 写真・文藝春秋写真部

〈STORY〉
「いらっしゃいませ。喫茶ガクブチへようこそ!」東京・高円寺、美咲真日留の元気な掛け声に吸い寄せられて入ったカフェは、壁が大小様々な額で覆われていた。中には靴紐や映画の半券、玩具など‟思い出の品“らしきものが……。兄の美咲伸也によって丁寧に額装され生まれ変わった品が、疲れた体と心を癒し、いつしか新たな出会いに繋がっていく。心温まる連作集。

杉守 いろいろな出来事が重なって、たまたまこの仕事を始めることになったんですが、額装の指南書のようなものって、昔もいまも特にないんですね。でも、とにかくいろいろなものが持ち込まれる。ユニフォームやお皿とか。

 お皿!?

杉守 綺麗な絵付けのお皿で、使えないから飾りたい、ということで、糸を使ってみたり。

 難しかったのは、エルメスのスカーフを、「使いたいときに使えるように額装してほしい」という依頼。日本全国の布を裏打ちできる職人さんを探して電話をかけまくりました。

 新潟に一人、洗濯の糊で和紙に貼って、剝がすことができる裏打ちをするおじいさんを見つけお願いすることができて、何とか完成させました。

 小説にもちょっとだけ登場していますが、鯉のぼりも額装されたんですよね。

杉守 はい。息子さんが成人してもう上げなくなった鯉のぼりを残せないだろうか、という相談がありました。とても立派で大きなものだったので、まずは切り身にして(笑)送ってもらい、手洗いで洗濯するところから、始まりました。このときも新潟のおじいさんの力をお借りしましたね。吹き流しや「うろこ」の部分など、3点ほど額装しました。

 こういうことがなければ、鯉のぼりはずっと物置に仕舞われたままだったけれど、これで毎日壁で会えますね。

 家に大切な思い出の品があるけれど、捨てられないしそのまま飾ることもできないで困っている人、多いと思うんです。こういう形で新しく命を吹き込むことが出来るって、素敵ですよね。

膨大にある額縁やマットのサンプルから、杉守さんがいくつかの組み合わせを提案してくれる。 写真・文藝春秋写真部