「例えば春に山菜をとりに山へ行くのは、クマのテリトリーに入ることに他なりません。

 極力控えるべきだと思います。やむをえず山に入る場合はクマ鈴はもちろん、ヘルメットやヘッドキャップ、耐切傷性のあるケプラー軍手などを着用することを推奨しています。

 さらに都市部であっても、いつどこでクマが出てもおかしくないという意識で行動することが求められると思います」

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 秋田県では2024年から「クマダス」(ツキノワグマ等情報マップシステム)を運用し、県内におけるクマの出没情報をリアルタイムで表示している。例えば2025年7月25日~2025年8月8日までの2週間での出没情報は実に411件に達している。同じ個体に関する情報が複数寄せられているにしても、かなりの数である。

秋田県のクマ出没マップ「クマダス」のトップページ(写真は2025年9月10日時点)

「今も毎日のように目撃情報が寄せられています。ただこのクマダスの運用が始まってから、人身事故は減っているんです。2023年には年間70例だったクマ外傷の傷病者数は、24年は11件にまで減少しました。出没情報が出れば、警察のパトカーも巡回して注意喚起を促しますし、住民の方もより注意して生活するようになるので、こうした取り組みは効果があると思います」

「重傷の顔面外傷は免れました」生死を分ける“防御姿勢”とは?

 それでも不幸にして、クマと出会ってしまった場合、生死を分けるポイントはどこにあるのだろうか。

「とにかく顔と首を守ることです。先ほども言ったとおり、目は治せませんし、顔には重要な神経がたくさん通っています。首はやはり頸動脈をやられると生命に関わるので」

 顔と首を守るために中永が推奨するのが、図の防御姿勢である。

クマから身を守る「防御姿勢」

「首の後ろに両手を組んで、うつ伏せになったり体を丸めたりして、顔を地面に伏せることで、顔と首を守る姿勢ですね。クマは人間を食べるために近づいてくるわけではないので、しばらく攻撃すると立ち去ります。実際に私どもが担当した患者さんで、山菜とりの最中にクマに襲われたものの、この防御姿勢をとって重傷の顔面外傷は免れました」

 それでも、顔面・頭部に挫滅創(咬み潰されたような傷)、鼻骨骨折、右指骨骨折、左橈骨骨折などの傷を負ったというから、クマによる攻撃がいかに強力なものであるかがわかる。

「クマが立ち去った後で、パニックにならないことが大事です。出血が激しければタオルやシャツで圧迫止血を行うなどの応急処置をする。そして何よりもすぐに救急車を要請することです。重傷外傷では、いかに早く本格的な止血術を開始するかが重要で、受傷から1時間が『ゴールデン・アワー』と言われており、これを超えると死亡率は3倍に跳ねあがってしまいます。どんな場合でも携帯電話などの連絡手段を持つことは必須です」

 何よりも大切なことは、と最後に中永はこうつけ加えた。

「決して諦めないことです。どんなに重傷に見えても、たとえ鼻がとれてしまったとしても、治療によってかなりの程度まで回復できることがわかっています。だから決して諦めず、パニックにならずに、防御姿勢をとり、まずは生き延びることを考えてください」

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