「日本のドラマというのは、世界の現在の潮流の中できわめて特殊な存在。一話あたり制作費が3000万円かかるとして、それで10話作ると3億円になる。普通ならば、3億円で面白いものを作って、いろんな形で売って10億円の売上げにしようと考える。
実際にアメリカ、あるいはアジアでも韓国のテレビドラマは世界中に進出している。韓国の場合、20話のドラマをワールドマーケットに出す、あるいは東南アジアに販売する。それで何億かの売り上げが出る。だから主演の俳優には一話3000万円ベースからギャラ提示をすることが出来る。(韓国の人気俳優)イ・ビョンホンクラスになると一話1億円払える」
一部を除いて日本のテレビ局が重視するのは日本国内での視聴率のみ。2次利用は再放送、あるいはDVD販売しか念頭にない。そのため、内向きになりがちであるという。
「まず広告代理店がスポンサー企業から金を集めてくる。そこから広告代理店とテレビ局の取り分を抜いた残りが制作費となる。芸能プロダクションの仕事は、その制作費をいかに『むしり取る』か」
「むしり取る」とはつまり、自社所属の俳優を一人でも多く起用させることである。
「一番の問題は、キャスティングの主導権がテレビ局ではなく、大手のプロダクションにあること。芝居が出来るか、出来ないかなんてどうでもいい。このタレントでこういうストーリーで行きたいというプロダクションの“行政”で決まっていく。BSのドラマが顕著なんだけれど、一部の大手プロダクションの息の掛かった俳優ばかりキャスティングされている」
プロダクション主導でキャスティングが決まることは、「事務所行政」、あるいは単に「行政」と呼ばれている。
「キスシーンNG」の俳優がいるのは日本だけ
本来、キャスティング―配役は、ドラマの根幹に関わる。
アメリカやヨーロッパの映画、長編テレビドラマではまず脚本があり、配役のオーディションが行われる。有名無名問わず、俳優はオーディションを受けて、制作者側がその役柄に合うかどうかを精査する。
前出のプロデューサーは、冷ややかな口調で言う。
「アメリカの場合はいい役柄を摑めば、スターになれる。だから俳優も努力する。日本の場合は役柄に合っていようがいまいが関係ない。プロダクションの力関係で決まる。よくある設定に、自信なさげで地味な女の子が、眼鏡を取るとすごく綺麗だったというパターンがある。でも、そもそも日本のドラマでは明らかな美人を配役しているので、ストーリーに説得力がない。だから、世界とどんどん差が開いていく」
さらにプロダクション側から“役柄”に規制が入ることも多いという。