国が特定災害対策本部(人的被害数十人規模を想定)を立ち上げたのは発生の1時間半後。非常災害対策本部(同100人超を想定)への切り替えは5時間後の午後9時すぎにずれ込んだ。その第1回の会議に至っては翌日午前9時。
災害発生時には被害の全容は分からないものとして、揺れによる生き埋めなどに対する最大限の対応を進めるべきだったのではないか。たとえ大津波警報が出されていても、これではマグニチュードが持つ意味や、阪神・淡路で起きた被害実態を、国は全く教訓化できていないことになる。
南海トラフ地震はどうなる?
■ 南海トラフ臨時情報
去年8月と今年1月、気象庁の「南海トラフ地震臨時情報」が出された。いずれも宮崎県沖の日向灘でM7クラスの地震が発生し、その揺れが南海トラフ地震と関連があるかどうか、気象庁の南海トラフ評価検討会が調査するものだ。
中でも8月は「巨大地震注意」の臨時情報が出され、「普段よりも5倍程度巨大地震の可能性が高まっている」として1週間程度の「注意」が呼び掛けられた。これを受けて和歌山県白浜町が海への立ち入りを制限したほか、名古屋城では石垣に近づかないよう呼び掛けが行われた。
東京大学のロバート・ゲラー名誉教授(地震学)は「南海トラフでは数百年に1回、巨大地震が発生してきた。備えることは無意味ではない」としながらも、「例えばM7クラスの地震が起きたとして、それがその後に起こるM8クラスの巨大地震の前兆現象と事前に指摘することは絶対にできない」とくぎを刺す。
「地震予知はできない」として2017年に国が大規模地震対策特別措置法(大震法)を事実上凍結して以降、東海地震の検討会を改組する形で南海トラフ評価検討会に移行させたことを批判する意見も多い。そもそも地震の確率論も、わずか100年程度の近代科学で世界全体の地震発生確率を日本に当てはめただけで、「南海トラフの地質特性を無視している」と複数の専門家から批判の声も上がる。
「日本は、どこでも地震が起こりうる」
ゲラー名誉教授は「日本は地震国で、どこでも地震が起こりうる」として、南海トラフだけに焦点を誘導するような取り組みに疑問を呈する。
現にМ8クラスの東海地震の32時間後に、同じ規模の南海地震が起きた幕末の南海トラフ地震である安政東海地震と安政南海地震(いずれも1854年、M8.4)が発生した前後には、現在の長野県で善光寺地震(1847年、M7.4)や東京で安政江戸地震(1855年、M7程度)が発生し、それぞれ死者は1万人規模。安政東海地震・安政南海地震より多かったとされる。南海トラフだけが致命的な地震災害となるわけではない。
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