それに、例えば日向灘地震の領域でM7クラスの地震が起きた場合と、南海トラフの真っただ中にある紀伊半島沖で同じくM7クラスの地震が起きた場合では、それ以上の規模の巨大地震が起こる可能性に対する注意・警戒のレベルが異なって当然のはずだ。そういった点も踏まえず、南海トラフの震源域のどこかでM7地震が起きた場合に、さらなるM8クラス以上の巨大地震が起きる可能性が高まっているなどと、果たして言えるのだろうか?
政府の想定は正しいのか?
そもそも「南海トラフ地震臨時情報」の元となる防災の取り組みでは、石橋克彦神戸大学名誉教授(当時東大理学部助手)が発表した論文の駿河湾地震説(東海地震説)が一大センセーションとなり、1978年に大規模地震対策特別措置法(大震法)が制定された経緯がある。
それは、東南海地震と南海地震が2年の間隔で連動し、昭和の南海トラフ地震とされる昭和東南海地震(1944年、M7.9)と昭和南海地震(1946年、M8.0)が発生したにもかかわらず、南海トラフの最も東側の震源域である静岡県沖で想定される東海地震が起きておらず、その割れ残りが今後単体で地震を起こす可能性が高いとする内容だった。
その結果、国は、東海地震は唯一地震予知の可能性があるとして、大震法に基づき、前兆現象が捉えられれば首相が警戒宣言を発令し、高速道路や新幹線を事前に止めて来るべき揺れに対応するとした。そうして備えたにもかかわらず、東海地震は起きなかった。その間、北海道南西沖地震(1993年)、阪神・淡路(1995年)、新潟県中越地震(2004年)、中越沖地震(2007年)、東日本大震災(2011年)が発生し、完全な空振りとなった。
2017年には「地震予知は不可能」として、国が大震法を見直したのに、南海トラフの臨時情報を横滑りさせる形で残したことに対しては、多くの研究者らからも異論が出された。にもかかわらず、南海トラフ地域の土地の特性を十分考慮に入れないまま、世界でこの100年余りに起きた確率論をそのままトレースして、全くの一般論で、去年8月の臨時情報で「今後7日間程度、平時に比べて5倍の発生確率」があるとしたことには疑問が残る。



