日和見を物語る政治部記者の言葉は、「事件や大問題になれば書けるよ」と言う社会部記者の言い訳に似ている。社会部記者も、当局が強制捜査するとわかれば俄然取材に邁進し、報じる。新聞は当局の動きを伝える機関紙ではないのに、「事件になるか否か」がしばしば紙面化のキーワードになっている。

 社会部デスクのころ、政治家がらみの原稿を提稿して、政治部出身の編集局幹部によく聞かれた。「君、これは事件に発展するのか」「はい。そう思います」。たいてい私は即答した。先のことは誰にも分らないし、むしろ立件されない不祥事や腐敗を独自に報じるのが責務だと思っていた。

「桜を見る会」問題に最初に触れた東京新聞の報道

 桜問題はその後、国会質疑に発展した。映像付きでわかりやすい話だからワイドショーがすこしずつ取り上げ始める。すると、政治部記者から電話がかかってきた。

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「例の桜の会のことだけど、ワイドショーでやっていたね。うちの部長が『ちょっとコレどうなってんだ』って言ってるんだけども、どうなんだ?」

 新聞社の名誉のために記すと、実は「桜を見る会」の問題に最初に触れたのは東京新聞である。赤旗日曜版のスクープより半年前の4月16日の「こちら特報部」に、〈「桜を見る会」何のためか……与党の推薦者多く 経費は税金 近年増加 ネトウヨのアイドル? いっぱい〉という記事を掲載した。こんな前文である。

〈安倍晋三首相主催で13日に開かれた「桜を見る会」が物議を醸している。この会は、各界で功績や功労があった人たちをねぎらおうと、歴代首相も手掛けてきたが、今年は安倍首相の「お友だち」の姿が目立った。さらに、開催に数千万円の税金が投じられるのに、招待者の氏名すら公表されないのだ。「何のための会なのか」と疑問の声が上がる〉

 その記事は私にも記憶がある。へえ、とびっくりした。

「桜を見る会」の支出に甘すぎる財務省

 記事を読んだ共産党代議士の宮本徹は約1カ月後、衆院決算行政監視委員会で質問し、(1)2018年度の「桜を見る会」の費用が予算の3倍となる約5200万円に上った、(2)第二次安倍政権の過去5年間、同じ額の予算を計上しているが、参加者が増え、実際の支出は毎回、予算を上回って増え続けている、(3)参加者も14年度の約1万3700人から18年度は約1万7500人に、19年度は約1万8200人に膨らんでいた――という事実を引き出した。東京や中日新聞は国会質疑を引いてこの事実を記した。

 肝心なのはこの先である。山本は議員と政府側の質疑を見ていて、「どうもおかしい」と感じる。予算に厳しい財務省が毎年、当初予算より2、3倍も膨れ上がる「桜を見る会」の支出に甘すぎるからだ。

 宮本事務所が資料請求をすると、破棄したと答弁する。さらに9月の2020年度概算要求で、財務省は当初予算そのものを3倍に引き上げ、予算を実態に合わせてしまった。