取材に必要なのは「問題意識」と「違和感」

 山本たちは「これはアンタッチャブルの首相案件予算ではないか」と思うようになる。彼の指示で若い記者たちが独自にネットを活用した公開情報検索を始め、それをグループチャットで共有した。桜の会に招待された安倍後援会の地方議員や支持者、芸能人たちがブログやフェイスブックなどに会に招待されたという情報を書き込んでいた。

 この後の顛末は法政大学教授の上西充子が、『政治と報道』(扶桑社新書)に時間を追って描いている。じわじわと詰めていく赤旗記者の様子は凡百の刑事小説よりも面白い。

写真はイメージ ©chocolat/イメージマート

 この問題を通じて山本が得たのは、取材に必要なのは「問題意識」と「違和感」という平凡な結論である。

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「ロッキード事件やリクルート事件は密室での疑惑じゃないですか。でもこの桜の問題は新宿御苑っていう公の場で、メディアも含めて何万人もの人が目撃してるんです。そのとき、『あれ、変だぞ』という違和感を感じるか、どんな問題意識を持って見るか、ということじゃないですかね。問題は若い記者の人たちというより、その上司や会社の姿勢だと思いますよ」

記者の七か条

 他にも彼が若い記者たちに言っていることがある。以下は彼の話から私がまとめた七か条。

 一つ目は、「抜かれたら抜き返せ」。赤旗記者は整理や校閲担当を含め全国に約300人しかいない。総勢44人の赤旗日曜版の場合、調査報道に携わることのできる記者は5人程度だった。全国の議員や全国1万8000の党支部などが情報収集を補っているものの、劣勢は否めない。重要なネタを抜かれて臍を噛むこともある。

 例えば、関西電力役員の金品受領問題だ。関電役員らが関電高浜原発が立地する福井県高浜町の元助役から巨額資金を受け取っていたことを、共同通信にスクープされた。

 地元の共産党議員たちが、元助役と公益事業の癒着と利権の実態を問題視して戦っていたのに、山本たちは気付かなかった。「それでも、抜かれたら抜き返そう。そうしないと記者としての意欲と質が下がる」。

 二つ目、「とにかく取材に行く。ネタ元を持つ」。

 三つ目、「地検特捜部がやらないことをやろうと心掛ける」。直近では、公開されている膨大な政治資金収支報告書から自民党派閥の裏金事件をあぶり出し、2024年度のJCJ大賞を受賞している。

 四つ目、「モノを手に入れる。証言だけでなく内部資料の入手を心がける」。五つ目、「本当の秘密はネットには出て来ない、やっぱりヒトだ」。六つ目、「危ない人でもずっと付き合え。大勢よりも一人を深く」。

 七つ目、「公正中立という建前を疑え」。共産党の活動とジャーナリズムは相容れないという批判もあるが、新聞社だって偏向しているではないか。安全圏にいて「公正中立」の両論併記では力にならない。

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