岡崎のヘッドコーチ続投

 この会見から4日後、岡崎から電話を受けた。

 桃井からヘッドコーチの続投を要請されたらしい。要請された際、岡崎は桃井に「有難いことですが、僕には知る権利があると思います。そもそも会長と原監督の間で、江川さんの名前を誰が出したのでしょうか」と尋ね、「来季のヘッドコーチは(清武)代表が守ってくれたが、会長やオーナー、監督が望んでいなければ自信が持てない」と訴えたという。

「望んでいないなんてことはない」と桃井が応え、岡崎が続投を受け入れたというので、私はほっとした。

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 岡崎も騒ぎに巻き込まれ悩み抜いたのだろう。別れの言葉は涙声だった。

「代表と一緒に始めた育成なので、守ってくれたポジションで続けたいです」

 電話口から漏れた声を素直に受け止めようと思った。

江川卓氏 ©文藝春秋

勝ち負けは自分の心が決めるもの

 これは少し後のことだが、吉峯の弁護士事務所を出るときに会話を交わした。「勝てますかねえ」。何気なく私の口をついて出た。新聞界の権力者相手に立ち向かえるか、という不安が脳裏にあった。すると、大柄の吉峯があごを上げて言った。

「あなたに志があれば負けということはないんですよ」

 瞼の裏に熱いものがこみ上げ、しばらく顔を上げられなかった。そうだ、勝ち負けなど自分の心が決めるものなのだ。

 会見翌日から、私の自宅や携帯電話、メールなどに社内外から激励や叱咤の連絡が入った。読売本社の元部下や友人に加え、心配する元国会議員、元刑事、元国税職員たちも混じっている。

「頑張れよ」という者がいれば、「とうとう、やっちゃいましたね」と笑ったり、「もっと我慢ができなかったのか」「売名行為に映るぞ」と小言や批判をする人もいた。中には飲み屋で会って「私も断固、ともに立ち上がります」と威勢よく言った元部下もいた。