「命」として保護する法律とのねじれ

この民法の枠組みの上に、特別な保護を与えるために制定されたのが「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)です。この法律は「動物が命あるものである」という認識に立ち、飼い主の責務や動物取扱業者の規制、虐待や遺棄に対する罰則を定めています。

近年の改正により、虐待に対する罰則は大幅に強化され、殺傷の場合は最大で5年の拘禁刑が科されるようになりました。また、生後8週齢に満たない犬猫の販売禁止(8週齢規制)、飼養施設の広さや従業員一人当たりの飼育頭数などを明確にした数値規制、販売業者へのマイクロチップ装着義務化など、保護水準は着実に向上しています。

しかし、こうした保護規定も、あくまで民法における「物」という土台の上に築かれた上部構造にすぎません。この「二層構造」こそが、日本の法制度が抱える「ねじれ」の正体です。

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一方の法律(民法)は動物を「物」として扱い、もう一方(動物愛護管理法)は「命」として手厚く保護しようとする――。この矛盾が、現実社会で多くの問題を引き起こしているのです。

ぺットの「慰謝料」は増えているが…

この法的な「ねじれ」に対し、日本の裁判所は長年、いわば「司法的なパッチワーク(つぎはぎ)」で対応してきました。原則として「物」の損壊では認められにくい精神的苦痛への賠償、すなわち「慰謝料」を、ペットの死傷事例においては例外的に認める判例を積み重ねてきたのです。

図表1は、その判例の変遷を示したものです。

この表が示すように、1961年にはわずか1~3万円だった「慰謝料」は時代とともに増額され、2008年には40万円という判例も出ました。司法がペットの感情的価値をより重視するようになったことは明らかです。

しかし、これらはあくまで個別事案での例外的判断の積み重ねに過ぎず、制度としての抜本的な解決には至っていません。

悪徳ブリーダーによる虐待に介入できず

法制度が抱える「ねじれ」は、動物虐待の緊急保護など実務面で深刻な障害を生みます。民法上の所有権と、動物愛護管理法に基づく福祉保護のどちらを優先するかが明確でないため、救えるはずの命が救えない事態が起こるのです。