イギリスの動物福祉法のアプローチ
イギリスは、より現実的なアプローチをしています。2022年に制定された「動物福祉(センティエンス)法」は、動物が喜びや苦痛を感じる「感覚ある存在(sentient beings)」であることを法的に承認しました。
独立した専門家で構成される「動物センティエンス委員会」の設置を義務付け、政府のあらゆる政策(農業、都市開発、環境政策など)が立案・実施される際に、「感覚ある存在としての動物の福祉に妥当な配慮が払われているか」を監視し、議会に報告する役割を担っています。
これは、動物の法的地位そのものを「物」か「人」かという二元論で争うのではなく、あらゆる政治的意思決定のプロセスに「動物福祉」という視点を制度的に組み込むというアプローチです。法的対立を避けつつ、実質的な配慮を促すこの手法は、長期的に見て、より広範で着実な福祉向上をもたらす可能性があります。
飼い主としては納得できない民法規定
他にも、フランスが民法を改正し、動物を「動産」から「感受性のある生き物」へと分類を変更したり、スイスが憲法で「生き物の尊厳」という極めて高い理念を掲げたりと、各国のアプローチは多様です。
これらの比較から見えてくるのは、「動物は物ではない」という理念を法に明記するだけでは不十分であり、それを実効性のあるものにするための具体的な法整備や、イギリスのような制度的仕組みが不可欠であるという事実です。
日本では、ペットの地位を考える上で根源的な制約となっているのが民法の規定です。民法第85条は「この法律において『物』とは、有体物をいう」と定めており、ペットを含む動物はこの「物」に含まれると解釈されています。
この分類は、ペットが死傷した場合の損害賠償を、市場価格や再取得価格といった財産的価値を基準に算定するという、飼い主の感情とはかけ離れた結論を導き出してしまいます。