《その方法は、記者から「(捜査対象となっているのは)池下議員か」と質問をして相手の反応をうかがうというもので、最初は「たぶん」と言われた。確信を持てなかった記者は、別の機会にも関係者に質問をしたところ、肯定的な回答をしたと受け止め、捜査対象者は池下議員に間違いないと思い込んだ。》(検証記事より)
捜査対象者を特定するには不十分だった
しかし、取材メモを精査すると、関係者のほうから池下議員の名前を挙げたことはなく、曖昧さが残る部分もあり、捜査対象者を特定するには不十分だったという。ここまで検証記事を読んでドキドキしてしまった。「危ない」という感想に尽きるからだ。では上司らはどう対応したのだろう。検察取材を統括する司法記者クラブのキャップは、複数の記者に対して、捜査を知り得る関係者への「裏付け」取材を指示した。
この点について検証記事は、
《本来ならキャップは確認が不足していることを前提に、「裏付け」という言葉を使わず、この記者にも他の記者にも捜査対象者を確認することを徹底させる必要があった。そして、複数の情報源から確認が取れなければ、記事は出さないとの方針を明確にすべきだった。》
結局、捜査対象者が池下議員であるとの確定的な情報は、最後まで得られなかった。しかもマイナス情報もあったという。池下議員へ電話取材をすると疑惑を否定し、捜査機関からの捜査は受けていないと説明された。これについては、
《キャップは、捜査機関が任意の事情聴取を行う前に、強制捜査に入る事例を取材した経験があることから、池下議員らが捜査を否定していても不思議ではないと考えた。》
ああ、ドツボにはまっていく様子がリアルだ。また、記事掲載前日の夜に複数の関係者から「誤報になるかもしれない」との情報も伝えられたという。だが記事は放たれたのである。
読売新聞は、誤報を防ぐため、独自取材について掲載前に内容を第三者的立場からチェックする「適正報道委員会」が設置されていた。
《しかし、今回の記事において、キャップや司法担当デスクは、チェックを受けていると特ダネを失ってしまうかもしれないと考え、同委員会に諮っていなかった。》