「ジャーナリズム精神がなくなったわけではないけど…」NHKに入ってフラットになった理由

――先日、『報道特集』のキャスターが外国人排斥の潮流に警鐘を鳴らすコメントをして炎上しました。

中川 それで言うと、私自身はNHKに入ってから、だいぶフラットになったと思います。それまではもっと尖ってたというか、強い思いが前に出ていたのに、環境の中で少しずつ変わっていった部分はあるかもしれません。

――公平中立の立場を守らないと、ということで?

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中川 かつて憧れたCNNの女性キャスターのように、1人の人間として自分の意思をしっかり表現できることは本当に素晴らしいことだと思っています。

 でも、NHK時代の9年間は、この発言で誰かを傷つけないか、「受信料を払いたくない」と思わせてしまうような振る舞いになっていないかと、常に気を配っていました。

 大学生の頃に抱いていた燃えるようなジャーナリズム精神がなくなったわけではないんです。ただその前に、まずは社会人として、そしてNHKのアナウンサーとして一人前にならないといけないと、その枠に自分をきちんと収める訓練をしていたように思います。

 

中継にワンピースを着ていったら「家に帰って着替えてきてください」と言われたことも…

――NHKの“枠”に合わせる苦労とは具体的にどんなことですか?

中川 数えきれないほどあるのですが(笑)。新人のときはネイルから指導が入って、香水についても「香水なんてつけて行ったら取材相手がびっくりするでしょ」と指摘されたり。あと、沼へ中継に行くのに、気合いを入れたワンピースを着て行って、「家に帰って着替えてきてください」と言われたり。

――NHKのアナウンサーとして“あるべき姿”があった?

中川 私が入局した2016年の頃と今とではまた違うと思います。今はダイバーシティいうか、それぞれの個性をより大切にする世の中の流れがあると思いますが、当時はもっとカッチリとしたアナウンサー像というのがあった気がしていて。

 NHKのアナウンサーは、たいてい地方局からキャリアをスタートして、いずれは東京で大きな仕事に携われるように現場で力をつけていくんですけど、一生懸命がんばっているからこそ、その流れの中で、自分の中にある尖った部分のようなものが邪魔にならないよう、自分で削ぎ落として過ごしていました。

 それで、4年後に東京に異動して、スポーツキャスターを担当するようになってからは、かつて削ぎ落としてきた部分を、少しずつ拾い集めて、また自分らしさとしてかたち作っていったような気がします。

 

――常に「Express Yourself」について考えていた?

中川 学生時代は、わりとはっちゃけてましたけれど(笑)、そんな中でジャーナリズムに憧れてNHKを志望して、ちゃんとした人間にならなきゃと思いながら、ある意味、武者修行のような気持ちで働いていました。

 軸はちゃんとあると思っているのですが、それでも常に、「自分が一番フィットする場所ってどこなんだろう?」と考えながら生きている気がします。でも、それって、誰しもそうなのかもしれませんね。

〈つづく〉

撮影=三宅史郎/文藝春秋

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