いつのまに、と驚くのだが、日本は世界で五番目に外国人労働者の流入が多い国になったという。受け入れ側の理由はやはり人手不足だ。たとえばコンビニで働く外国人は今や四万人を超え、店員の二〇人に一人が非日本国籍となる。芹澤健介『コンビニ外国人』(新潮新書)は店員確保のために、海外での採用や研修の実施など様々な施策を打ち出すようになった最新コンビニ事情を報告する。

 だが、いつまで外国人に頼れるのか。今後、経済が失速して賃金が低下すると外国人は潮が引くように消え去る可能性がある。外部に労働力を求める国は多く、労働市場を開放せずに留学や研修名目で入国した外国人を働かせているいびつな日本の現状は、それだけで不利だ。

 そして、もうひとつ、今後、イスラム理解が進むかどうかも日本の未来に影響を与えるのではないか。日本人にとって仏教やキリスト教よりもイスラムは遠い存在だ。それが共に働く際の見えない障壁になっているように思う。

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 その意味で宮田律『イスラム10のなぞ』(中公新書ラクレ)はタイムリーな刊行だ。『コーラン』成立の経緯といった初歩的知識から、アラブとイスラエルの因縁の歴史まで丁寧に解説してくれる。

 イスラムについては無知が原因の誤解もあるようだ。アルカイダやISの活動から原理主義のテロを連想しがちだが、実は『コーラン』はアッラーが尊いとした生命の殺害を禁じているという。同胞意識を育み、弱者に寄り添うことがイスラムの本質だという著者の説明は、信者が世界で十六億人まで増えてきた事実を前に説得力を持つ。

 フィフィ『日本人に知ってほしいイスラムのこと』(祥伝社新書)も先入観を覆す驚きがあり、“タレント本”だと侮れない。特に印象的だったのはイスラム法のルールを守る度合いが地域によって異なる理由を書いた箇所だ。食のタブーを厳格に守り、ヒジャブなどの着用に頑なにこだわるイメージがあるイスラムだが、信仰を神と個人の契約だと考えるので、神と直接に相対する中で個々人がルールをどう守るか決められるのだという。

 こうした、一本スジが通っているがゆえの柔軟さは、実態といかに乖離しても外国人単純労働者に門戸を閉ざす原則を曲げない、日本のスジがとおらない頑固さと対照的だ。イスラムという鏡に映して日本人が改めて己を見つめ直し、自らに欠けていたものを補う努力を始める。その先に「日本人」人口減少社会の危機を、多文化共生社会化で乗り越える道が開かれることに期待したい。

コンビニ外国人 (新潮新書)

芹澤 健介(著)

新潮社
2018年5月16日 発売

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イスラム10のなぞ - 世界史への招待 (中公新書ラクレ)

宮田 律(著)

中央公論新社
2018年5月8日 発売

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