『ソウルフード探訪 東京で見つけた異国の味』(中川明紀 著)

「ロシアのボルシチや西アフリカのフフなどは女性の料理。上手に作れないとお嫁に行けないし、浮気防止のために男性の胃袋を掴むべきといわれています。一方でアメリカのBBQは、男の料理。週末に家族に安価な肉をおいしく振舞うため、創意工夫を凝らしているんですよ」

 ライターの中川さんが、東京近郊に暮らす様々な国の人々に「ソウルフードは何ですか?」と聞いて歩いて早5年。この度、32の国と地域のソウルフードをまとめた。昨年、在留外国人の数は256万人で過去最高を記録(法務省調べ)。西葛西のインド人、群馬県大泉町のブラジル人など、外国人が寄り集まって住んでいる町があることを見聞きする機会も多い。

「外国からやってきて日本に住んでいる人にとって、食が宗教と同じくらいの拠り所となります。自分の国を知ってもらいたいとレストランを始める人も多い。難民として日本にやってきて長い間帰国できない人もいますし、実情はヘビーなんでしょうけれど、多くの人は食について、誇りを持って嬉しそうに話してくれます。その分、在留外国人の切実さや根底にある強さを感じますね」

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 ソウルフードの定義は難しく、人によって思い入れのある食事は違う。

「母の味がソウルフードとおっしゃる人は多い。母親の気持ちは万国共通だなと思ったのは、久しぶりに帰ってきたわが子のためにたくさん食べさせたいと腕を振るう料理がどの家庭にもあること。それぞれの家の味がソウルフードとして、受け継がれていけばいいなと思います。省みるに私は、実家までほんの1時間ほどなのに、なかなか頻繁には帰れない。親が元気なうちに、料理を習いたいと思いました。料理中には会話が自然に生まれるし、食事をしながらだと肩の力を抜いて話せますしね」

なかがわあき/出版社で書籍や週刊誌の編集に携わったのち、2013年よりライターとして活動。ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで「世界魂食紀行 ソウルフード巡礼の旅」を連載中。何事も体験がモットーで、国内外の食、遺跡などを見てまわる。

 様々なおいしそうな料理が紹介されているが、とくにB級グルメ的な魅力を発しているのは、ハンガリーのテペルトゥやドイツのカリーブルストだ。テペルトゥは豚の脂身の素揚げ。カリーブルストはカレー味のソーセージ。これらを気軽に食べられる店が東京にあるのは嬉しい。

「全国のみなさんの住む町にも在留外国人が増えているかもしれません。この本にはレストラン情報など、紹介した国の料理を食べられるヒントを載せました。言葉を学ぶのは大変だけれど、その国の人が作るものを食べにいくだけでも発見がありますし、社会情勢を知ることもできます。新しい文化交流の方法と思っていただけると嬉しいです」

『ソウルフード探訪 東京で見つけた異国の味』
世界各国の「ふるさとの味」を求めて都内近郊レストランや大使館を突撃取材。「インド人が食べている“味噌汁”って?」「エチオピアの国民食はぞうきんの味がするほどまずい?」などの噂を確かめにどこにでも。食欲と好奇心が刺激される各国の食が一堂に。実際に紹介したソウルフードが食べられる店情報も掲載。

ソウルフード探訪: 東京で見つけた異国の味

中川 明紀(著)

平凡社
2018年5月25日 発売

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