2016年の日本シリーズは、日本ハムと広島が戦った。シリーズ開幕を3日後に控えた10月19日、日本ハムの中田翔は、広島市中区の実家での食事会にチームメイトを招く――。
ベストセラー『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』の著者、鈴木忠平氏の連載「No time for doubt ―大谷翔平と2016年のファイターズ―」第7回から一部紹介します。
日本シリーズ直前の「食事会」
プロ野球チームには野手と投手の間に見えない壁がある。職分の違いによるものだ。例えば、トレーニングの段階から時間も場所も同じくする投手同士には自然と連帯感が生まれ、プライベートでも行動をともにすることが増えていく。ひと昔前には「投手族」という言葉も存在した。投手であるか、野手であるかは球界における最小単位の身分証明でもある。大谷にはそれがない。両方あるということは持っていないに等しい。誰もが、自分とは所属の異なる人間として見るからだ。
それに加えて、入団当初の彼とチームメイトの間にはさらに薄い壁があった。大谷は他者に誘われて外出する際、同行する人物を栗山に報告することが義務付けられていた。野球以外の誘惑から特別な才能を守るという意味で設けられたルールだった。そもそも夜の街に出る意思がなかったという彼は、年長者から声を掛けられても、ほとんど断っていた。
“あいつは誰が誘っても来ない”
“ほとんど外出しない”
そんな噂は中田も聞き及んでいた。それでも広島での「中田会」には多くのレギュラーメンバーが参加するため、大谷にも声を掛けてみた。
「翔平どうするよ。お前、来るのか?」
すると大谷は拍子抜けするくらいに、あっさりと言った。
「あ、いきます」
