北海道日本ハムファイターズは大谷翔平が所属した2016年、10年ぶりに日本シリーズ優勝を果たした。日ハムが日本一の栄冠に輝くまでの軌跡をノンフィクション作家の鈴木忠平氏が描く。パ・リーグ優勝がかかった西武戦の直前、栗山英樹監督への怒りを大谷はあらわにしていた。一体なぜ——。

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「全試合出るつもりでいます」

 優勝へのマジックナンバー「6」が点灯した福岡の夜、ベンチ裏の通路で記者たちに囲まれた大谷は言った。

「残り試合も少ないですし、自分としては全試合出るつもりでいます。あとは監督の判断にお任せします」

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大谷翔平は「全試合出るつもりでいます」と記者たちに宣言していたが… ©文藝春秋

 最大のヤマ場を乗り越えたチームはもう止まることなく、ゴールテープを切るだけだった。逆転ドラマは完結を待つのみだと誰もが思っていた。だが、栗山の頭の中に声を響かせたという「神様」はなお、形あるものとしての結末を見せてはくれなかった。

 マジックがついた途端に打線が重たく湿り始める。得点を奪えない。もどかしい敗戦と、福岡から続く日本を縦断するような連戦の疲労がスパートの足を鈍らせる。足踏みをしているうちに、シーズンの残り試合は少なくなっていった。

 夏の名残りを感じさせる暑さとなった9月27日、ファイターズは大阪から埼玉へと北上していた。世の中がいつも通りに動いている平日の昼間に移動し、西武ドームでナイトゲームを戦う。マジックは「1」まで減っていたものの、残りは3試合しかなかった。西武ライオンズと2試合を戦った後は、札幌ドームに戻って千葉ロッテマリーンズとの最終戦が待っている。その間、ホークスはおそらく負けないだろう。だから、3試合のうちの一つを絶対に勝たなければならない。最後の一歩をどう踏み出すか。迫るリミットが指揮官に問い掛けていた。栗山は最悪のシナリオも頭に置きながら、考え続けていた。