※筆者註:O'Leary KD, et al. A Closer Look at the Link Between Marital Discord and Depressive Symptomatology. J Soc Clin Psychol 1994; 13: 33-41

自己犠牲ができる人ほど要注意

これを「カサンドラ症候群」と呼びます。

カサンドラとは、ギリシャ神話の預言者の名前です。真実を知る能力を持ちながら、呪いにより誰からも信じてもらえなくなり、孤独に苦しんだと言われています。その姿が、配偶者と気持ちを共有できずに心を病んでしまう人と似ていることからこの名前がつけられました。

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また、「介護うつ病」という言葉があるように、在宅で家族の介護に携わる人はうつ病になりやすいことも知られています。

「在宅で高齢者を介護している人の50%にうつ病の傾向が見られた」という研究報告もあるくらいです。相手に合わせて、常に自分の気持ちをコントロールしなくてはならないために、本音を言えない状況がうつ病のリスクを高めてしまいます。

暴力を伴う人間関係もうつ病に深く関係しています。とくに親やパートナーから暴力を受けることは、体の傷以上に心にも深い傷を残します。研究でも「DV被害者の40〜60%がうつ病を発症した」ということも明らかになりました。これを「DVうつ病」と呼びます。

本来ならば安らぎの場所である家庭において、常に不安と緊張を感じているならば、心を病んでいくのは想像にかたくありません。

ここに紹介したような人間関係は、決して好ましいものではありません。もしそれで悩んでいるならば、一人で抱え込まずに人に助けを求めましょう。

自己犠牲ができる人、我慢強い人ほど、こうした関係を続けてしまい、いつの間にか心が壊れてしまいます。状況によっては逃げることが必要かもしれません。しかし、家族関係の場合は簡単に縁を切ることもできませんので、主治医や臨床心理士・公認心理師などサポートしてくれる第三者に入ってもらいましょう。

高橋 倫宗(たかはし・のりむね)
精神科医
東京慈恵会医科大学卒業。医学博士・精神科専門医・高橋医院院長。個人や企業に心理カウンセリングやメンタルヘルス対策を提供するミーデン株式会社顧問。
鬼頭 智美(きとう・ともみ)
臨床心理士
昭和女子大学大学院卒業。臨床心理士・公認心理師。個人や企業に心理カウンセリングやメンタルヘルス対策を提供する、ミーデン株式会社統括心理士。
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