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「人間って不思議ですね」
食べ物だけではなく、きれいな水などもありません。水を発見できたら、汚いと思っても、口にしました。
「車が通ったあとにできた窪みにたまった水を飲んだり、それからうみのたまった腐ったような水を飲んだりしました」
ふぅーっと大きなため息をつき、こう言葉を続けました。
「それでも大きな病気にならなかった。人間って不思議ですね」
体調はすぐれませんでしたが、放置したままでした。
「ずっと熱が出ていたような気がするんですよね。よく生きのびてこられたねとつくづく思いはしますね」
「本当にとても考えられないことばかりだった」と言いながら、自分の右手をこちらに差しだし、こう語ります。
「この手はですよ、兵隊がね、こっちかいてちょうだいと言ったらかくし、うみがじくじくしているところも一生懸命にかいてね。死人も片づけたし。その手を洗う水はないし、ちょっと何かでふいただけで、その手でおにぎりもつくって食べたしね。もういろんなばいきんを食べたはずですけどね」
山内さんのしわだらけの右手。その一つひとつのしわの奥に、何かがひそんでいる……。戦争の記憶は、心だけでなく全身に消えることなく刻まれるものだと痛感しました。



