ハンドル操作を誤ればダイレクトに谷底へ…

 正直、進むか戻るかだいぶ迷ったが、既に戻るのも嫌だったので、進むという決断を下した。道幅は普通乗用車でギリギリ、左手は山の斜面が迫り、右手は谷底だ。

昼でも心細い道だが、夜間になると不安しかない(画像は再訪時のもの)

 ガードレールは設置されておらず、ハンドル操作を誤ればダイレクトに谷底へ落ちてしまう。暗くて谷底が見えない。川のせせらぎがはるか遠くから聞こえてくる。

夜間の運転は恐怖と隣り合わせ(画像は再訪時のもの)

 胃がキリキリと痛み、手のひらに汗をかきながら慎重に運転したことを、今でも覚えている。

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 20分ほど走ると高低差が少なくなり、落ちたら死ぬような高さではなくなったが、依然として道幅は狭くガードレールもない。

道幅は狭くガードレールもない

 落ちたら瀕死といった状況だろうか。そんな時、今度は目の前に川が現れた。

河川が路上を流れる洗い越し

 通常、山から流れ出た沢の水は、道路の下に溝や導水管を設けて谷に排水される。しかし、ここ国道157号では、国道本線上にそのまま川を流して谷に排水しているのだ。これは“洗い越し”と呼ばれるもので、設置費用が抑えられ、土砂が流れ込んでも詰まらないなど管理が容易になるが、国道本線上にあるのは非常に珍しい。

国道上に洗い越しがあることは珍しく、4箇所もあるのは157号ぐらいだろう

 何度か路上を流れる川を越え、ようやく福井県との県境である温見峠に到達した。

岐阜と福井の県境・温見峠

 極度の緊張により疲労はピークに達していたが、まだ終わりではない。ここからは下り坂となるが、これまでと同じかそれ以上に道の状態は悪かった。

 ガードレールが無く、夜間ということもあり、地面と空の境界線が曖昧で分かりにくい。特に急カーブでは、地面があると思ったら無いこともあって、時には完全に停車して地面があることを確認しながら、慎重に峠を下った。

どこまで地面があるのか確認しながら慎重に進む(画像は再訪時のもの)

 峠道を数時間運転して、福井県大野市でようやく民家の灯りが見えた時の安堵感は、はかりしれないものがあった。コンビニを見つけると一気に緊張が解け、無意識のうちに車内で眠ってしまっていた。

 私の中で国道157号は大きなトラウマになっていたが、少し運転に慣れた頃、トラウマを克服するべく再訪した。すると心に余裕もできたため、周囲の景色が素晴らしいことに気付いた。

愛好家の間で温見ストレートと呼ばれる束の間の直線区間

 以来、酷道という趣味にハマり、25年にわたって全国の酷道をわざわざ訪ねて行くようになるので、人生どこでどうなるか分からない。