立木に掴まりながら急斜面を下りるが、転げ落ちないように踏んばらないといけないため、体力を消耗する。
地図上では川まで水平距離が50メートルしかなかったが、実際には大きく回り込んだりジグザグにルートを取らないと下りられず、かなりの距離を歩くことになる。休み休み下りていたが、いよいよ川面が近づいてきた頃、我々の前に急斜面が立ちはだかった。
これまで温存していたロープを木にくくり付け、一人ずつ慎重に下る。斜面は脆く、歩くだけで崩れてしまうため、完全に下りきって退避するまで次の人は下りられない。早く下りたい気持ちはあるが、焦らず安全第一で全員下りることができた。
長年にわたって国道157号を走り続けてきたが、谷底に下り立ったのはこれが初めてだ。
谷底に広がるまさかの景色
“落ちたら死ぬ!!”のイメージから、恐ろしい場所を想像していたが、澄んだ水が流れるとても綺麗な渓谷だった。
透明度の高い川は、まさに清流。
遠目には、渓谷に流れ込む滝も見える。一同から、感嘆の声が漏れた。
とてもいい場所だと思ったが、それだけでは終わらない。川の対岸に、自動車が落ちているのが見えた。
自動車は原形を留めておらず、茶色く錆びた塊のようになっている。国道から落ちた車が対岸までいくことはないので、状況から考えると、上流で転落した車両が流されてきたのだろう。
おそらくもう事故処理は済んでいると思ったが、万が一ということもある。もしもまだ取り残された人がいたら、ご遺族の元へ帰してあげたい。対岸に渡って確認したいが、腰の上まで水量があり、渓谷で流れが速かった。
幸いにも使っていないロープがあったので、まずは二人一組になってロープを掴んで慎重に川を渡る。
対岸の木にロープを固定し、それを頼りに一人ずつ川を渡った。







