妻は「赤ちゃんが産みたい」と言ったが…
ただ、「やなせさんの赤ちゃんが産みたい」と言った暢だが、2人の間に子どもは誕生しなかったようだ。45年の夫婦生活で犬やカナリアというペットを飼ってはいたが、実子はいなかった。
「あんぱん」第105話では、のぶが自分の半生を振り返り「うちは何者にもなれんかった。(中略)何ひっとつやり遂げれんかった。嵩さんの……赤ちゃんを産むこともできなかった。嵩さんは子どもが欲しかったやろうに」と涙ながらに語るシーンがあった。このシーンからは、夫妻があえて子どものいない人生を選んだのではなく、妊娠・出産を望んではいたけれど果たせなかった設定だということが分かる。しかし、そんなのぶの手を握って「僕たち夫婦はこれでいいんだよ。(中略)のぶちゃんはそのままで最高だよ」と言った嵩はパーフェクトな夫である。
「妻以外の女性を愛さなかったと言えば…」
夫婦の間に子どもがいないという事情は、最もプライベートな領域であり、これだけ少子化が進んだ今でも、簡単にその理由を聞いてはいけないことでもある。ドラマも前出ののぶのセリフ以上には突っ込まず、モデルであるやなせ夫婦のプライバシーを尊重しているようだ。
やなせ自身もその理由を明かしてはいない。妻亡き後、「妻以外の女性を愛さなかったといえば嘘になる」(『アンパンマンの遺書』)とまで書いているのに、子どもがいなかった理由は書かなかった。ちなみに、これは不倫をしていたわけではなく、周囲にいる女性に淡い恋心を抱いた経験があるということのようだ。
やなせは「アンパンマン」のアニメがヒットした後のインタビューで、アンパンマンは自分の子どものようだとたびたび語っている。最初は中年期の自分の投影のようにオジサンだったアンパンマンを、幼児向けに3頭身にアレンジし、アニメでは戸田恵子が少年のような声で演じた結果、純真な息子のような気持ちがしてきたのかもしれない。