昭和から平成にかけて長く会社員をしてきた私が自信を持って言うのだが、職場における男性には「やなせさん」か「非やなせさん」の2種類しかいない。

「やなせさん」は女性を「同僚」として見る。頭で「同僚だよね」と確認するのでなく、普通に同僚と認識する。つまりやなせさんにとって「女性重役」は突飛なことではなく、そういう日がくると思ったから描いたのだろう。

「非やなせさん」はそうはいかない。表面的には「女性を認めてます」という顔をしていても、腑に落ちていない。「女性=下」が彼らの「普通」だから、「非やなせさん」はいつまでたっても「非やなせさん」だ。ジェンダー平等という世の流れを知り、研修などを受けても、「えっへんな僕」が心から消えない。

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みつ子さんを見て、「アンパンマン」の人気の秘密がわかった気がした。子どももおらず、働いてばかりだったので「アンパンマン」をほとんど知らなかったのだが、「みつ子さん」が教えてくれた。

「おんな」も「子ども」もない

やなせさんは、「子ども」を下に見ていない。「おんな子ども」という表現があるように、女性も子どもも世間からは低く見られる存在だ。でもやなせさんにとっては、どちらも低くない。一緒に働く相手に男性も女性もないし、読者に大人も子どももない。えっへんと描いたものでないから、「アンパンマン」は子どもの心にすっと入っていく。

そしてもう1人、「おんな子ども」を下に見ない「やなせさん」が、やなせさんの近くにいた。サンリオ創業者で現名誉会長の辻信太郎さんだ。辻さんは戦後、「山梨シルクセンター」という会社を起こし、グリーティングカードを売る仕事を始め、旺盛な事業欲と才覚で日本にキャラクタービジネスを広めた立志伝中の人物だ。

「あんぱん」で辻さんは、八木信之助(妻夫木聡)という嵩の人生に大きな影響を与える人物として描かれている。それに合わせ辻さんの人生もいろいろと紹介され、語り部役を担っている1人がノンフィクション作家の梯久美子さんだ。