「みんなが仲良くなるにはどうしたらいいだろう」

辻さんは毎年、いちご新聞8月号に戦争のことを書く。

王さまは、このあまりにも悲しくてつらい記憶をずっと自分の胸に潜めて生きてきましたが、体験者として「戦争は二度と起こしてはならない」ということをいちごメイトのみなさんには伝えておかなくてはと思い、数年前からこの8月号のいちごの王さまからのメッセージに戦争体験を書くようになりました(24年8月号)。

桐生工業専門学校(今の群馬大学)の1年だった辻さんは1945年7月6日、帰省していた甲府市の実家で大空襲に遭う。妹をおぶって逃げながら見た光景、1127人が亡くなったこと、そして「どうして何も悪いことをしていないのに、爆弾を落とされて殺されるのか」という疑問を大人にぶつけても「戦争だから仕方がない」としか返ってこなかったこと。繰り返し書いている。

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25年8月号には、戦争の話からサンリオの企業理念を書いた。

王さまは戦争を体験してから、「あんな悲惨でつらいことはもう二度と繰り返してはいけない。みんなが仲良くなるにはどうしたらいいだろう?」ということばかり考えてきました。(略)そんな考えで、キャラクターを考えたり、商品を企画したり、グリーティングカードを作ったり、ピューロランド、ハーモニーランドを作ったりしました

戦争を経て、「みんなが仲良くなる」ことを考え続け、サンリオを経営した辻さん。「ひっくり返らない正義」を考え続け、「アンパンマン」を描いたやなせさん。人生をかけて問い続ける2人には、男も女もないのだと思う。

矢部 万紀子(やべ・まきこ)
コラムニスト
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。著書に『笑顔の雅子さま 生きづらさを超えて』『美智子さまという奇跡』『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』がある。
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