性的な場面や喧嘩に込めた“生きてる”という感覚
――連載時から単行本化に際しては、かなり加筆修正をされていますね。特に二人の性的な場面には、最後まで細かく手を入れていらっしゃったのが印象的でした。
綿矢 性的な場面は、非常に情緒を必要とする場面だと思ったんです。二人は昔からの知り合いで、それまでに色々なことがあってそこに至るので、ただ、相手を愛し合うというだけじゃなく、もっと色々な思い出とか、相手への慈しみみたいなものがちゃんと感じられないと、感情移入できないなと――連載の締め切りに追われていると、完全に集中して書くのが難しい時もあって、単行本にする前にもう一度集中して、この場面についてはしっかり書き直しました。
――綿矢さんの作品は、デビュー作から性的な場面をぼかさずに、はっきりと描かれている印象があります。
綿矢 ずるっと深みにはまっていくような感じで小説が進んでいくのが好きなんです。性的な場面は、読者を引きつけるためというより、結構自分のために書いていて。自分がそのシーンの深みにはまりたいから書いているので、カットはしたくないですね。
――自分のため? ですか。
綿矢 はい。ギアを上げるというか、自分の中でドライブ感を回すために書いています。性的な場面だけじゃなく、喧嘩したり、裏切ったり、ポロッと何かを言ってしまうとか、そういう動物的な場面もそうですね。こういう部分は、私の小説に魂がこもる、血みたいな感じなんです。そこをカットしてしまうと、どうしても「生きてる」っていう感じがなくなってしまうような気がします。理性で蓋をしている部分を、小説の中では解き放ってしまえる。書いていても面白いですし、そういう冒険の場でもあるなと思います。
