注目の新人だった松田聖子の初ランクイン

 聖子さんは、当日は札幌で仕事があり、飛行機で東京へ帰ってくる、という。普通なら、羽田のロビーとかで歌っていただいたらいいのだろうが、注目の新人だった聖子さんの初ランクイン(八位)だったから、修爾さんも気合が入った。飛行機が到着し、タラップを聖子さんが最初に降りてきて、彼女に続いて降りてくる乗客たちとボーイング747ジャンボ機を背景に、そのまま滑走路で歌ってもらおう! 修爾さんは、すばらしい絵コンテを頭に浮かべ、羽田空港、全日空、運輸省等々と、細かい交渉を繰り返し、やっと許可が下りた。当日、聖子さんを乗せた飛行機は、千歳空港を定刻に出発した。天気も悪くない。飛行は順調です、という連絡も入った。

羽田空港の滑走路 ©文藝春秋

 修爾さんが、やれやれ、と大きな息をつき、私たちも安堵して、いざ番組を始めようとした直前、飛行機が風に乗ったのか、五分早く着きます、と連絡が来た。「ザ・ベストテン」には順位があるので、九位の曲より先に、聖子さんが歌うわけにはいかない。だけど、五分も待っていたら、ほかの乗客たちが先に降りてしまって、がらんとした滑走路で、聖子さんが歌うことになってしまう。それでは、せっかくの演出プランが台無しで、いい画にならない。

「飛行機を遅らせてください! 機長に言ってください」

 修爾さんは、血相を変えて、

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「飛行機を遅らせてください! いや、なにも到着時間を遅くしてくれというんじゃないんです。定刻どおりに着陸させてください。定刻なら、誰にも迷惑かけませんよね?ゆっくり飛ぶように、機長に言ってください」

 と、全日空の人に言ったら、相手の方は一瞬、絶句した後、

「飛行機がスピードを落としたら、どうなると思いますか?」

 と答えた。修爾さんは「引力くらい、知っている!」と言い返したくなったそうだけど、ひたすら定刻での到着をお願いした。

松田聖子 ©文藝春秋

 結局、羽田上空が混んでいたか、到着してからの飛行機に誘導路か滑走路をゆっくり走ってもらうか何かして、タラップが出てくるタイミングは、完璧にうまくいき、スタジオで久米さんが「今週の八位は……『青い珊瑚礁』、松田聖子!」と発表するや、聖子さんが飛行機から降りてきた。降りたところで、追っかけマンの松宮一彦アナウンサーがマイクを渡し、私が初登場の感想などを訊いて、聖子さんは歌い始めた。うしろにはタラップを降りてくる大勢の乗客、そしてそびえるようなジャンボ機。狙いどおりの画が撮れたけど、修爾さんはさすがにへとへとになっていた。

 後年、この時の機長さんのお嬢さまから、「まだ幼かったので知りませんでしたが、父から『こんなことがあったんだ』と、懐かしそうに、教えてもらいました」というハガキが来て、修爾さんはとてもよろこんでいた。