司会を務める『徹子の部屋』が今年2月に放送開始50周年を迎えた黒柳徹子さん。NHK専属のテレビ女優第一号としてデビューし、テレビ、ラジオ、舞台女優のみならず、ベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』の執筆、ユニセフ親善大使など、幅広い分野の第一線で長年にわたり活躍してきた。
そんな徹子さんが、幼い頃から人生のさまざまな場面で大切に受け取り、励まされてきた「二十四の名言」を辿る、書き下ろし自叙伝『トットあした』(新潮社)より一部を抜粋して紹介する(全4回の3回目/続きを読む)。
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「お嬢さん、何か買ってやるよ」
渥美清さんは、「お嬢さん、おれが稼いで、いつか……」と言っていた約束通り、やがて、私に何か買ったり、おごったりしてくれるようになった。
最初に買ってくれたのは、二人ともまだ若い頃、だからまだあまり「稼いで」いない頃のことだったけど、宝石箱の形をしたお弁当箱だった。青山に海外のおしゃれな雑貨や小間物を売っているお店があって、そこは深夜まで営業していたから、ある夜、何人かで雨宿りに駆け込んだ時のことだ。
雨宿りだけのひやかしだと、お店に悪いということもあったのか、兄ちゃんは──渥美さんは私のことをいつからか「お嬢さん」と呼び始め、私は渥美さんのことを「兄ちゃん」と呼ぶようになっていた──、
「お嬢さん、何か買ってやるよ」
と、突然、言った。
私は驚いて、
「いいの?」
「いいよ、いいよ。どれがいいんだい」
そのお店には、私が前から目をつけていた、ブリキで出来ていて、外側には宝石の絵がちりばめられていて、一見、宝石箱だけど、開けると実はお弁当箱、というアメリカ製のランチボックスが売っていた。そんなに高くはないけど、お小遣いの乏しい私には、ちょっと今は我慢しようかな、でもかわいいな、しばらく売れないといいけど、と思っていた品物だった。
「私、前から、これが欲しかったの」と言うと、
「そうかい。これ、欲しいと思ってたやつと、ちゃんと同じかい? 大丈夫かい?」
「同じです。これ、欲しかったんです。売れやしないかと心配してたの」
「まだ残ってて、よかった、よかった」
