11年越しの“初恋”が成就した名シーン

 そんな状況を大きく変えたのが、恋のきっかけともなったメイコの歌であり、憧れだった『素人のど自慢』だ。NHKの番組ディレクターとしてメイコに再会した健太郎は、『素人のど自慢』の出場を勧め、メイコは熱心に練習に励む。

 結局、本番で歌う前に健太郎が登場したことで、緊張したメイコは不合格に。メイコは落ち込んでしまうが、その姿を見た健太郎はメイコを喜ばせたいと無意識に思っていた自分に気がつき、やっとメイコから自分へ向けられている思いと、自分のメイコへの思いを自覚した。

朝ドラ「あんぱん」公式Instagramより

 きっとメイコが何も言わなくても、そのうち健太郎から告白されただろう。だが、メイコはポロポロと涙をこぼしながら「健太郎さん、ずっと、ずっと好きでした。今も……今も大好きです」と伝えた。

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 歌と自らの行動で運命を切り開いてきたメイコらしい告白は、そばで微笑ましく、でもちょっと照れくさい様子で2人を見つめているのぶ、嵩、蘭子(河合優実)も含めて、心温まる名シーンとなった。

 アンパンマンという国民的キャラクターが生まれる大河のような物語の中で、メイコのエピソードは一見すると支流の一つに過ぎないかもしれない。だが、むしろ彼女が全力で歌い、恋し、涙する姿こそが『あんぱん』を唯一無二の作品にしていたように思う。

 メイコは、たくやと嵩が『怪傑アンパンマン』のミュージカルを作ることについて「嵩さんもたくやさんもいい大人なのに、心は子どものままです。そんなふたりが作るミュージカル、見てみたいです」と声を弾ませる。

 子どもの心を持ったままなのは、ずっと歌を大切にしてきたメイコも同じこと。メイコも嵩が作り出した「アンパンマン」の世界を支える大切な1人となっているのである。

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