とはいえ、その後もなかなか再分配の議論や、結果の不平等にも目配りをした公平な仕組みに向けたアファーマティブな介入(より踏み込んだ積極的介入)というのは、残念ですがあまり進んでいないことも付言しておきましょう。

「学歴による分断は一層進んでいる」論

学歴社会の是非はさておき、その傾向は強化されていると言えるのか否か。ここに焦点を合わせる研究の代表格が、『暴走する能力主義』の中村高康氏や、吉川徹氏でしょう。吉川氏の『学歴と格差・不平等 成熟する日本型学歴社会』『学歴分断社会』は、格差が断絶レベルまで進んでいることをデータでわかりやすく読ませます。濱中淳子氏も『検証・学歴の効用』において、はっきりこう記しています。

「学歴の効用が増大している」

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繰り返しですが、学歴を媒介した所得格差は増大しています。それを知らないふり、世のなかそんなものだろうと、学歴を媒介にした所得格差に目もくれないでい続ける限り、「能力」による学校から職業への正当な采配だと信じて、実際には不公平な競争を生涯にわたって続けさせられる……教育費の公的な負担の議論も後回しになる……。非常に暗澹とした気持ちになりますが、こうした研究も連綿と続いています。

加えて、『高学歴難民』や『高学歴ワーキングプア』、『ルポ高学歴発達障害』などの、「学歴がすべてではない説」も枚挙に暇がありません。

存在感を放つ「学歴フィルター」

就職コンサルタントである福島直樹氏の『学歴フィルター』も、企業による学歴差別の実態を暴くルポであり、学歴(主に学校歴)によって就職という人生のフェーズにしかと分断が存在する様相を描いています。学歴フィルターないしは「ターゲット大学」=「特定の大学層の学生に対して特別な施策を行なう重点採用を実施している企業」と呼ばれるスクリーニング(選抜)が行なわれている割合で言うと、この本のなかでも参照されている、日本最大級の人事ポータルサイト「HRPro」の実施した調査(2017年実施)によれば、社員数1001名以上の大企業ではじつに56%だと言います。