就職氷河期世代の工藤さんの“サバイバル術”とは

 現在母親は82歳で要介護4。認知症と診断された69歳の時に要介護1と認定され、徐々に介護度を上げてきた。2年ほど前からは、工藤さんが自分の息子だとわからなくなることもある。

「僕はポジティブに考えています。結局、2012年から祖母と母の介護がスタートして13年経つんですけど、当時と比べて、明らかにテクノロジーが進化していて、介護が楽になっているんですよ。だから僕みたいに遠距離在宅介護も可能になった。少子高齢化や人手不足など、課題はいろいろありますが、僕はテクノロジーが救ってくれるのではないかと考えています」

 時間があれば工藤さんは、100円均一ショップや家電量販店などをまわり、介護に使えそうなものを物色するのだという。そうやって介護を楽にする方法を見つけ出してはブログで発信してきた。そんな「新しい視点」を持つ工藤さんの心にある「金言」は、「諸行無常」だという。

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「世の中、変わっていくじゃないですか、いろんなものが。だから、あまり先を考えてもしょうがない。自分の人生もそう。まさか自分が介護離職するなんて、当初のキャリアプランにはありませんでした。だからこそ、常に同じではない中で、変化した時に自分がどう振る舞えるかとか、どういう備えをしておくかが重要かなと思います」

 確かに、未来のことは誰にもわからないのだから、考えても仕方ない。それよりも重要なのは、どう変わったとしても臨機応変に対処できるような柔軟さを身につけておくことだ。

現在の工藤広伸さん 本人提供

「フリーを経験したら、もう会社員には戻りたくないと思うようになりました。満員電車に乗らなくていいですし、『肩書き』とか『誰がどこの会社に入った』とか、全く気にならなくなったんです。会社員時代は『早く定年退職したい』と思っていたのですが、『今は生涯現役でいたい』『社会と繋がっていたい』と思うようになりました。目標は、母が女性の平均寿命である、87.13歳を超えること。まだ5年ほどありますが、親孝行とかではなく自分のために。自分の人生も楽しみながら、母と一緒に『しれっと』人生のゴールに向かいたいと思っています」

 祖母と父親を看取り、母親を介護中の工藤さんからは、暗さは微塵も感じられなかった。

「自分の人生を楽しむ」。これが令和以降を生き抜くキーワードなのかもしれない。

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