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ウナギ学者の警告「もはやニホンウナギは安定供給できる魚ではありません」

天然遡上ウナギは激減。いつ崩壊のポイントを超えてしまうのか……。

2018/07/20
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シラスウナギは密漁や密売が横行している

―― 日本でウナギの個体数の増加に向けてできること、短期的なものと長期的なものがあると思いますが、少しご解説をいただけますでしょうか。

海部 一つ目はやはり資源管理です。適切な消費上限量を設定しなければいけない。具体的には池入れ量を適切なレベルまで下げる必要があります。ただ、その「適切なレベル」を設定するためには、もちろん話し合いが必要になりますし、科学的なデータをちゃんと盛り込まなければいけません。モニタリングの体制と研究者が話し合う組織もきちんと整備する必要があります。

海部氏は、科学的な知見に基づいた保全が重要であると強調する ©文藝春秋

 また、シラスウナギは密漁や密売が横行しており、資源量の指標にするにはデータが不足しています。だから、シラスウナギの採捕と流通に関して、トレーサビリティを担保するシステムを作ることが必要です。これに関しては、ブロックチェーン技術を導入するのが効果的ではないかと考えています。全取引の電子報告を義務化して、ブロックチェーン技術で監視する。

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 加えて先ほどの耳石を化学物質で標識にする仕組みを導入すれば、トレーサブルな流通システムが構築できるはずです。技術的には可能ですが、導入に反対する個人や組織は多いでしょう。

はじめに考えるべきは河川横断工作物の撤去

 次に行うべきことは、ウナギの生息環境の回復です。まずは、ウナギが遡上できる状況を作ることが重要です。河川の遡上阻害がウナギ個体数の密度を減少させているということは、環境省の調査ですでに明らかにされております。はじめに考えるべきは河川横断工作物の撤去です。それが不可能な場合は、効果的な魚道を設置する必要があるでしょう。

国内の河川には、ウナギの遡上を妨げる大小さまざまな河川横断工作物が存在する ©iStock.com

 さらに、ウナギの放流についてもっと考える必要があります。放流は人間が自然界に対して介入する行為ですから、さまざまな害も考えられる。病気の拡散や遺伝的な混乱を生じさせる可能性もあります。逆に言えば、そのような悪影響を与えないかたちの放流なら積極的に行われるべきでしょう。例えば、汲み上げ放流。川の堰の下流側でウナギがたまっていたら、それを上流側に汲み上げるわけです。養殖場に入れないので病気にもかかりませんし、水系をまたいで移動するわけでもありません。もともと人間が堰き止めてしまったウナギを上らせるのは、人間が与えている悪影響を低減させることを意味します。