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関わるべき官庁は水産庁だけではない

―― 水産庁を始めとする行政に対する要望はありますか。

海部 まずは、繰り返しになりますが、研究者が話し合う場を作って、ウナギの政策決定に科学的な知見を盛り込む仕組みを作ることが重要です。もう一つは、行政の横の連絡です。ウナギ問題では水産庁の名前がよく挙がりますが、関わるべき官庁は水産庁だけではありません。生物の保全であれば環境省が関わるべきですし、河川の話ならば国交省。不法な流通を取り締まる場には警察庁も関係していますし、消費者庁の関与が必要な場面もあるでしょう。水産庁以外の官庁についても、ウナギの問題に関して当事者意識を持って、互いに連携すべきではないか、と思います。

 また、政治のサポートも重要です。養鰻や河川の漁業に関する議連もあるわけですから、問題解決のためには、行政を適切にサポートする必要があるでしょう。

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―― 海部さんは個人的にはウナギは食べるんですか。

海部 今は基本的に食べません。一時期「ウナギのことをもっと知らなければ」と考え、意識的に食べるようにしていたんですけど、シラスウナギの流通をめぐる違法行為に関して考えるようになってから、食べなくなりました。

「安く」「大量に」はもう無理 ©iStock.com

「たかがウナギ」ではない

―― 最後に、消費者へのメッセージを。

海部 研究を応援して「こういう研究が進んでウナギの安定供給がされるようになることを願っています。頑張ってくださいね」と言ってくださる方もいますが、それは難しいです。ニホンウナギは安定供給できる魚ではありません。ウナギの消費量は需要ではなく、資源量によって決定しています。そして、その資源量は減少する一方です。工業製品のように、企業努力によってどうにかなる類いのものではありません。

 この点は、世間の認識とのズレを大きく感じます。最近では、ウナギの安定供給を実現することではなくて、「ウナギは安定供給できない状態に陥っている」ことをお知らせするのが僕の仕事なのかもしれないな、と考えています。

 日本社会ではウナギはすごくシンボリックな存在で、世の注目を集めます。再生可能な天然資源の持続的利用とか、水辺の環境をどう考えるのか、という議論をする重要なキッカケだと思っています。だから、「たかがウナギ」ではない。この議論をうな重やうな丼の値段といった話に矮小化しないことが大事です。もちろん身近な問題であることは間違いありませんけれど、そこで終わらないことが肝心ですね。

ウナギ学者が5つの誤解を正す「完全養殖技術が確立されても、絶滅危機は変わらない」〉も併せてお読みください。