岡山の天然ウナギ激減は、個別の特殊事情とは考えにくい
―― 放流魚と天然魚は簡単に見分けがつくのでしょうか。
海部 簡単ではありません。魚の頭の中には耳石という感覚器官があります。この中に「年輪」が刻まれていくんですが、耳石を分析すると年齢や当時の生息環境を推測できるのです。放流魚はすべて養殖場で育てられますから、放流魚の耳石には養殖場のエサや水質が特徴として残されます。
一方、沿岸域で調べてみると、放流魚はほとんどいない。大半が天然遡上のニホンウナギです。この水域で漁獲データを収集したところ、アップダウンはあるものの、減少していました。詳しくは下のグラフをご覧いただきたいのですが、2003年から2016年の13年間で、近似直線を引くと漁獲量は大体5分の1に減っています。
天然ウナギばかりいる沿岸域のウナギは減っている。さらに淡水域にはほとんど天然遡上のウナギが入らなくなっている。つまり、岡山の天然ウナギは往年と比較すれば、激減したと言えるでしょう。ニホンウナギは海で生まれて、東アジア全域に広がっていきます。そうすると、岡山のこの現象は、個別の特殊事情とは考えにくい。ニホンウナギ資源全体の傾向を反映している可能性が考えられます。もちろんこれから他の場所でも調べていくつもりですが、資源管理の議論をするには、科学的なデータ収集が不可欠です。
ヨーロッパではシラスウナギの来遊量が増加
―― ヨーロッパでは、かなりウナギの保全が進んでいると聞きます。実際、個体数の増加には結びついているのでしょうか。
海部 結びついている可能性があります。ヨーロッパウナギも乱獲と環境変化で激減していましたが、2010年ぐらいからシラスウナギの来遊量が増えています。冒頭でも言ったようにシラスウナギの来遊量は年変動が大きいので、まだ楽観視はできませんが、回復を始めた可能性が考えられます。ヨーロッパにはウナギ研究者の公式なワーキンググループがあって、1900年からのデータが揃っているのです。
―― 保全の取り組みとしては、具体的には漁獲制限ですか。
海部 漁獲制限はあります。ヨーロッパウナギの域外持ち出しも禁じられています。それから、放流も国によって温度差が非常に大きいですが、行われています。
生息環境の改善にも注力しています。特にイギリスが進んでいます。魚道を整備したり、取水口にフィルターを付けて迷入を防ぐなど、ウナギを守るための仕組みが整備されています。しかも、それぞれの取り組みに対して科学的なモニタリングが行われている点が日本との大きな違いです。