ものまね芸人・坂本冬休み。「歌まね」「しゃべりマネ」のレパートリーは50を超え、代名詞はその名が示すように、本人公認の坂本冬美のものまねである。

 ステージが始まれば、圧倒的歌唱力と絶妙なトーク力、こだわりの衣装とカツラで客を魅了する。だが、その半生は筆舌に尽くし難い。

 20代半ばには原因不明のめまい症状に襲われほぼ寝たきりになった。借金もかさみ、一時は1000万円を超えた。何をやっても裏目に出る。坂本冬休みの‟冬の時代”。話を聞いた。(全4回の2回目/続きを読む

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ものまね芸人・坂本冬休みさん ©石川啓次/文藝春秋

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テーマパークでバイト「誰かヤンカトを教育しろよって」

――暴走族「ブラックエンペラー」を抜け、高校卒業後に某有名テーマパークでバイトを始めます。レストランで働いていたんですよね?

坂本冬休みさん(以下、冬休み) ビュッフェレストランのバイトとして受かりました。ただ、基本の「いらっしゃいませ」がまずできない。ずっと夜の集会に通っていたから、日の目が怖いし笑えないんですよ。前髪をイジりながら、「いらっしゃいませー」って接客していました(笑)。私の本名は加藤だから、周りからは‟ヤンキー加藤”って呼ばれ、しばらくして‟ヤンカト”に。毎日、「誰かヤンカトを教育しろよ」って言われてましたね。立ち姿、笑顔、声のトーン、仕草……全部教えてもらって、きちんとできるまでに4年かかりました。なのに、辞めちゃうんですよ。

――どうして辞めてしまったんですか?

冬休み それ聞きます? まぁね、お客さんが残した料理を食べちゃって。

――バックヤードで?

冬休み ちょいちょい表でも。若気の至りです。見つかって、首根っこつかまれて、ちょうどエビフライを口に入れた瞬間だったんだけど、偉い人から「いつからだ」って言われて、「今日ゥ初めェてでェすゥ(口をモゴモゴさせながら)」って言ったら「いや、ずっと見てたから」って。その日にクビになりました。私も、「ごちそうさまでした」って言って辞めました。

テーマパークでアルバイトしていた頃の冬休みさん 本人提供

――そんなキャスト見たことないですよ。

冬休み 私は、人が笑顔になる仕事をしたかったのね。それで、千葉から東京に出て仕事を探そうと。笑顔になる仕事って何かなって考えたら、結婚式場だった。都内にある某有名式場にアポなしで突撃したんですけど、「いや、帰ってください。募集してないんで」って言われて。当たり前ですよ。だけど、私はどうしても働きたかったから、お構いなしで「お願いします、支配人呼んでください」って頭を下げて。

 支配人が来てくれたんですけど、やっぱり「募集してない」の一点張り。諦められなかったから、『千と千尋の神隠し』の千尋のように、「私ここで働きたいの」って繰り返しました。あまりにしつこかったから、支配人が折れて、「トップセールスマンになるつもりでやるんだったら中途採用してやる」って言ってくれて。それで働けることに。実際、私はトップの売り上げを記録するまでになったんですよ。