坂本冬美公認ものまねタレント・坂本冬休み。ステージが始まれば、坂本冬美本人から譲り受けた華やかな着物を着こなし、圧倒的歌唱力と絶妙なトーク力、こだわりの衣装とカツラで魅了する。だが、その半生は筆舌に尽くし難い。

 20代半ばに襲われためまい症状が緩解すると、再起をかけてものまねの世界に飛び込んだ。だが、どこまで行っても霧は続く。酔客の尿が頭上に降り注いだとき、目が覚めて、心が折れた。

 次に彼女が選んだ場所は、「児童養護施設」での住み込みだった。なぜ、その選択をしたのか。‟坂本冬休み誕生前夜”に起こったこと――。(全4回の3回目/続きを読む

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ものまね芸人・坂本冬休みさん ©石川啓次/文藝春秋

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ものまねオーディションを受け、フジテレビの舞台へ

――20代半ばに襲われた原因不明のめまいで、ほぼ寝たきりの状態に。しかし、29歳のとき緩解すると、そこから冬休みさんはものまね芸人を目指します。

坂本冬休みさん(以下、冬休み) 30歳じゃないですか。同世代は、みんなそれなりに人生を歩んできているけど、私は「どうするんだろう」って。寝たきりのときも、結婚式の司会の勉強をしたり、できないながらもできることはやっていたんですよね。緩解後のあるとき、友人からものまねのオーディションがあるということを教えてもらって、「モノマネが得意なんだから受けてみたら」って言われて。フジテレビのものまね番組の素人枠として、テレビに出られるかもしれない……。

結婚式の司会をしていた頃の冬休みさん 本人提供

 それで、そのオーディションに行ったら、みんな、中森明菜さんとか山瀬まみさんのものまねをしていたのね。ありきたりなものまねでは引っかからないと思って、私はとっさの思い付きで、「アダルトビデオ初主演の方に気を遣う加藤鷹さん」というものまねをやりました。

――闘病中に大量に見ていた経験が、こんな形で役に立つとは(笑)。

冬休み いざというときは、やっぱり瞬発力が大事だからね。加藤鷹さんは本当に優しくて、名前を何度も呼ぶんですよ。女優さんの名前が「あけみちゃん」だったら「あけみちゃんこっち来て。あけみちゃんこっち、ああ、あけみちゃん来てよ。あけみちゃんこっち」って。それを披露したら面白がってくれて、スタッフさんから「残っていてください」って言われて。1000人くらいから100人くらいに絞られて、結局、最後の3人に残ることができ、そのままフジテレビの舞台に。

©石川啓次/文藝春秋

 さすがに加藤鷹さんはできないから、松居直美さんのものまねを披露したところ、当時誰も松居さんのものまねをする人がいなかったから、結構な衝撃としてざわついてくれたんですよ。そのおかげで、いろいろな事務所からお声を掛けていただいたんですけど、私はものまねは好きだけど、芸能界のこととかよく分からなかったから、あまりピンと来なくて。なんか面倒くさそうって。