冬休み 50か所くらい行ったと思う。坂本冬美さんが来れば興味はわくだろうけど、「冬休みって誰だよ」です。家族を失っている人もいるから、ものまねなんて見る気になれないですよね。被災者の皆様は大変な思いをされていて、目の前に芸人がいても、とても顔をあげられる心情ではなくて。でも私は、せっかくご縁を頂いているので、ほんの少しでも皆様に元気になって頂きたいという思いでした。私は下を向いて、座っている方のそばで正座をして、「生きてくれてありがとうございます」と手をつないで、みんなでふるさとを歌いました。

 計り知れない悲しみや辛さの渦中におられる方が多い場所でショーをするときって、あんまり気を遣いすぎても良くないんですよ。かと言って、当たり前のように行って、「こんちは!」って盛り上げるのも違うんです。本当に経験が大事。被災地でショーをしても、最初はみんな殻に閉じこもって段ボールから出てきてくれない。だけど、出てきてくれた人の一人が、帰り際にトマトの袋をくれて。その中に1万円が入っていて、「また来てください」って手紙があってね。毎回、たった一人の人の心に何かしら触れあえたのかと、嬉しかったです。

老人ホームでボランティアをしている冬休みさん 本人提供

盛り上がるのは「本家の坂本冬美さんがすごい」から

――冬休みさんは、ボランティアとして各地を回る中で、本家である坂本冬美さんと交流を持つようになるんですよね?

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冬休み 冬美さんも、「自分の名前をもじって活動しているものまね芸人がいる」ということは知っててくださったそうです。それで、冬美さんの歌の番組に出させていただくことになって、なけなしのお金で京都の着物屋さんにお願いして、冬美さんと同じ着物を生地を染めるところから作っていただきました。

 実際にお会いできたときには「あら、私と同じ着物ね」「本気でわたしの物真似してくれてるのね」って。「全国あちこち行かれてるのを聞いてます。とても盛り上がってるそうね。これからもわたしが行けないところに、行ってちょうだいね」と言ってくださって。後日素晴らしいお着物もいただきました。

 ご本人がいないところで魅力を届けていくのがものまね芸人の役割だと思っています。ご本人様から高価な衣装をいただけるということは、本当にすごいことなんです。冬美さんの人間力の深さに感謝の気持ちでいっぱいです。

モノマネネタの“ご本人”・坂本冬美さんとの1枚 本人提供
坂本冬美さんから譲り受けたという着物の一部 本人提供

――以前の冬休みさんのものまねは、クレヨンしんちゃんに代表される‟ナチュラルボーン”な感覚が先行してたと思うのですが、ボランティアを経て、“腕を磨く”ことの大事さに気が付いた。その両輪が回るから、坂本冬休みは面白いのだと理解しました。