三度も四度も繰り返して観た回もある。決して朝ドラ好きでないのに、『あんぱん』は春から今週まで見飽きることがなかった。

 肝が据わってるんだ、中園ミホさんは。敗戦で目が覚めて、これからは平和の時代だと浮かれた人々のインチキを暴いていく。

 出征と悲劇。日中戦争下の、()()における殺戮と空腹を描き、前者では河合優実と石工職人、豪ちゃんの告白と戦死公報で多くの視聴者を号泣させた。

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 戦闘よりも辛く死に至る空腹を描いた、中国人宅に侵入し、殻つきの卵をむさぼり喰らうシーンは、やれコメの価格が上がったと不満を口にする、令和の庶民に衝撃を与えただろう。

 やなせたかしさんがモデルの嵩(たかし・北村匠海)は、敗戦を契機に、一夜にして正義と悪が引っくり返った日本に馴染めず、ブレない正義と平和を目指す。

 やなせさんが神と崇めた手塚治虫さんとの縁を少々記しておく。

 私は七〇年代半ばから俗悪不良誌に身を置き、やがて全国の夜に浮かぶ自販機ポルノの編集長に。

 石井隆の性愛描写に着目し、これらエロ劇画が青年劇画十年の総決算と体系づけ、大きな反響もおきた。

「ぱふ」というマンガ・ファンの評論誌に、手塚さんの長いインタビューが載った。「『ぱふ』も亀和田君のような新しい評論を載せなきゃ」の一節があって、心臓がドキドキした。

 数か月後にマンガ誌の対談でお会いした先生は、眞栄田郷敦が演じたその人に酷似していた。役作りの巧みさ故か。手塚さんから握手を求められた。大きく柔らかい掌だった。郷敦君、『エルピス』に次ぐ好演だ。

眞栄田郷敦 ©文藝春秋

 その後『中村敦夫の地球発22時』という番組がマンガ特集を組んだ。ゲストは手塚先生と私だけだ。

 早目に局入りした私は、楽屋が畳なので横になっていた。数分後に、隣の部屋に手塚さんが入室した。どうしよう。若輩者の私がご挨拶するのが筋だが、先生もお疲れだろうし。

 逡巡するうち、楽屋の扉がノックされ「亀和田君、スタジオは一時間後らしいから、それまでマンガのお喋りをしましょうよ」。マンガの話だけ一時間!

 凄いでしょ。いつもマンガの事を考えてる。吾妻ひでお『不条理日記』に触れ、「僕もね、ああいうSFマンガ、描けると思うんだ。でも妙にマニアックになるとなあ……」描きたそうなんだ、可愛いね。

 本番が始まった。少年ジャンプの五百万部に迫る勢いの意味を討議し、それとは一線を画した、大友克洋の新しさに私が言及した。すると「僕も彼の新しさは認める。でもね、真の評価はあと三年は待ちたいな」。後輩のマンガ家に神様が本気で闘志むき出しで応戦するんだよ。マンガの神様、格好よかったな。

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『あんぱん』
NHK総合 月~土 8:00~
https://www.nhk.jp/p/anpan/ts/M9R26K3JZ3/