『土と生命の46億年史』(藤井一至 著)講談社ブルーバックス

 科学の進歩は留まるところを知らない。深海や宇宙という未踏の領域に次々と歩みを進めている。人間の知能も、遠からずAIに凌駕される可能性がささやかれている。ところがそんな現代の科学技術をもってしても、今なお人工的に作れないものがふたつあるという。「生命」と「土」だ。どちらも身近なものなのに、大きな謎が残っている。

 とりわけ土は、生命と違って技術倫理的な制約がない。にもかかわらずできないのは、とにかく土が不思議の塊だからだ。それゆえに、著者の学究心は熱く燃えている。

 永久凍土から熱帯雨林まで、スコップ片手に世界中を飛び回り、自宅では家庭菜園に勤しみ、せっせと泥団子を作る。どれも土の研究者として、謎を解き明かすためのこと。本書では、そうして蓄えた膨大な知識と経験を元に、壮大なスケールで土と生命の成り立ちを書き尽くした。

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「著者が過去に書かれた『大地の五億年』(ヤマケイ新書)と『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)がおもしろかったのでご連絡したのがきっかけです。この方なら、科学の新書レーベルであるブルーバックスでこれまでにない土の本を書いていただけるのではないか、と。テーマをすり合わせる中で、生命誕生から現在に至るまで土がどのような働きをしてきたか、幅広く厖大な題材からストーリーを紡いでいただきました。

 著者の専門は土壌学ですが、今回の本では生物学、化学、生態学など多岐にわたる領域を扱っています。研究者が自身の専門を超えたものを書くのは覚悟が必要だと思いますが、6年かけて、地球の歴史を貫く魅力的な本を書いてくださいました」(担当編集者の家田有美子さん)

 著者の文章はサービス精神旺盛。たとえば地球46億年の歴史を想像させるのに、46歳の「地球お母さん」の半生になぞらえる。小学1年生で生き物係になり(生命誕生)、紆余曲折を経て41歳から家庭菜園を始めた(植物の上陸)「お母さん」の下、わずか10日前から温室栽培を始めた小人が人類である……と。

 他にも『ドラえもん』や『天空の城ラピュタ』などの名作を引用して不意に混じるユーモアも絶妙。専門用語や化学式も登場する中身の濃い理系本だが、読み物として純粋に楽しい。小学生の読者もいるそうだ。

2024年12月発売。初版1万部。現在8刷7万2000部(電子含む)