綾香と史郎はだんだんストレスを募らせていった。これでは父親を居候させているようなものではないか。こんなことならアパートにいた方が良かった。何の助けにもならないのに説教ばかりしている。事件直前は父親と顔を合わせること自体がストレスになっていた。

2人のアリバイ工作

 事件前日、2人は例によって説教を受け、「1人目の子どもの面倒も見れんのに、よう2人目が作れたな。お前らに親の資格などない!」などとののしられた。

 その夜、史郎は台所から包丁を持ってきて、枕元に置いた。

ADVERTISEMENT

写真はイメージ ©getty

「もう我慢できん。今後も一緒にいるなんて無理や。殺してやる!」

「ホンマにやるん?」

「これからのことを考えたら無理だ。一緒に付いてきてくれ」

 事件当日未明、2人は眠っている哲也さんの寝室に忍び込んだ。史郎が右肩甲骨上部に包丁を突き刺し、「ウッ」と言って痙攣を始めた哲也さんの両足を綾香が押さえた。動かなくなると、ブルーシートに梱包して車で運び出した。

 哲也さんの遺体を山中に捨て、凶器の包丁はその帰りに車を走らせながら山中ののり面に向かって投げ捨てた。

 綾香はアリバイ工作のため、哲也さんの携帯を使って母親らにメールした。

「お父さんがいなくなった。借金があるって。〈オレのことは探さないでくれ〉ってメールが来た」

「やっぱりあの人は変わらないのね……。自己破産まで経験したのに、また同じ過ちを繰り返すなんて……」

「どうしよう、失踪届を出した方がいいのかな?」

「いいでしょ、いい大人なんだし、自業自得でしょ。そんなことを黙ってたなんて……。あんたたちに同居してもらって、生活の面倒を見てもらおうと思ってたんじゃないの?」

 母親は綾香の説明を聞いても疑いもしなかった。