割り箸につけた針で蝶々を彫る

――どうやって彫ったんですか。

てんてん まず、友だちに蝶々の絵を腕に描いてもらいました。その後、割り箸の先端に針をくくりつけて、その針を墨汁に浸し、絵をなぞるように腕にぷつぷつと針を刺していきました。

 それがとても痛いんですよ。絵を描くことにも慣れていないので、蝶々が歪んで汚くなってしまって。友人はスティッチのタトゥーを入れていたんですけど、それも絵心がなくて全くうまくいきませんでした。

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――失敗してもタトゥーは身体に残りますよね。

てんてん 残ったタトゥーが本当にイヤで、18歳になったら失敗したタトゥーの上から新しいタトゥーを入れてもらおうと決めていました。

©︎山元茂樹/文藝春秋

――それで龍のタトゥーを彫ったんですね。タトゥーを入れるスタジオは誰かに紹介してもらったんですか。

てんてん 18歳でタトゥーを入れる場合、スタジオによっては親の同意書が必要になることがあるんですよね。事前に相談しておこうと思って、お母さんに「失敗した自彫りが汚いから、この上にタトゥーを入れてもいい?」と相談しました。

「もしタトゥーを入れて不便なことがあっても、それは自己責任だよ」と言われて、スタジオに連れて行ってくれました。

――お母さんがタトゥースタジオに連れて行くのって珍しいですね。

てんてん わたしの家ってちょっと変わっていたんですよ。お父さんはいませんでしたし、お母さんは介護の仕事をしながら妹2人とわたしを育ててくれていました。

 ただ、アルコールを飲む量が多くて。最初は休みの日に大きなペットボトルに入った焼酎を飲むだけでしたけど、少しずつアルコールの量や飲む頻度が増えていって。酔っ払うと暴言を吐いたり、暴力をふるうこともありました。

©︎山元茂樹/文藝春秋

山奥の崖みたいなところから車ごと転落

――育児と仕事が大変だったんでしょうか。

てんてん 育児ノイローゼでした。わたしが7歳の時に忘れられない“事件”も起こりました。

 叔母がスナックをしていたので、母によく夜中に連れて行ってもらっていたんです。いつものように店を出て車に乗っていたら、山奥の崖みたいなところから落ちたんですよ。

 なにが起こったかわからなくて。とりあえず幼い妹の命を確認して、車から出ました。たまたま近くに民家があったので、そこで電話を借りて、おばあちゃんに助けを求めたんです。おじいちゃんが車で迎えに来てくれて、無事に帰れたんですけど。

――事故だったんですか。

てんてん 数年経ってからお母さんに質問したんです。そしたら「みんなを巻き込んで死のうとしたんだよね」って言われて。「こわっ」と震えました。育ててくれたことにはすごく感謝してるんですけど、破天荒な人ですよね。だから、わたしがタトゥーを入れることにも反対しなかったんだと思います。