――そこからどうやって彫り師の道に進んだんでしょうか。

てんてん タトゥーのおかげで生きられていると気づいてから、彫り師になりたいと思うようになったんですよ。ただ、どうやって彫り師になるかはわからなくて。

 なんとなく彫り師になりたいと思いながら、スタジオに通っていた時に「私も彫り師になりたいんですよね」とボソッとつぶやいたら、しばらくして「真剣に彫り師を目指さない?」と誘ってくれたんです。

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 人生に夢もありませんでしたし、タトゥーを入れ終えたら人生に満足しちゃう気がして。死にたいと思うのをやめて、「生きたい」を与えられる彫り師になろうと決めました。

©︎山元茂樹/文藝春秋

悲しい気持ちを身体に表現して「生きるを与える」彫り師へ

――彫り師の修行はどのように始まったんですか。

てんてん 師匠に返事をした次の日くらいに、いきなりスタジオに呼び出されたんですよ。行ってみたら、タトゥーベッドの上に兄弟子が横になっていて。ももの裏に桜が描かれた転写シートが置かれていました。

 師匠から「早速彫ってみて」と言われたんですけど、まともにデザインを描いたことも彫ったこともないので、めちゃくちゃ戸惑いました。でも、兄弟子もうまくいかないことがわかっていて体を貸してくれているんですよね。やるしかないので、タトゥーを彫らしてもらいました。

兄弟子に初めて彫ったタトゥー (写真=本人提供)

 たとえば、画用紙に絵を描く時って、絵を動かしながら進められるんですよ。でも、人に彫る場合は、自分が動かないといけません。当たり前のことなんですが、それすらわかっていませんでした。

 タトゥーを彫りやすいように兄弟子の足を持ってみたのですが、師匠から「人の身体はその方向には動かないよ」と注意されましたね。

――その後はどういう風に修行を進めたんですか。

てんてん 絵が全く描けなかったので、タトゥーのデザインを模写することから始めました。

 どんなデザインだったら立体的に見えるのかとか、人の肌に入れたらどういう見え方になるのかとか、基礎から学びましたね。半年くらい経ってからようやく簡単なタトゥーを彫れるようになりました。

――ひとり立ちしたのはどれくらい経ってからですか。

てんてん 2年ほど経った27歳の時ですね。その時に風俗店を辞めて、ちゃんとスタジオに所属しました。

 タトゥーは一生モノなので、任せてもらえるとやる気が出ます。無事に彫り終えて、「かっこいい」とか「ありがとう」とお客さんに言われるとめちゃくちゃうれしくて。

お腹には実家の猫をモチーフにした妖怪「猫又」を入れている(写真=本人提供)

――ちなみに、現在はどんなタトゥーを彫っているんでしょうか。

てんてん 基本的には和彫です。ただ、最近は自分の作品作りにも取り組んでいます。他の人がやっていないことをやりたいと思って、喜怒哀楽の感情と和彫の技術を組み合わせたタトゥーを作ろうと考えています。

 ある程度のイメージはできているので、もう少しデザインを磨けば発表できそうです。