『探偵物語』ストーリーの構想を話す

 私が、3人のプロデューサーに招ばれた。

 挨拶は2ヶ月前に済んでいる。伊藤が厳しい顔で話しかけてきた。

「黒澤さんから聞いているのは、丸山君はアクションものは苦手で、軽いコメディタッチの青春ものが得意なはずって言うんだけど、はず、だよ、自分ではどう思ってる?」

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「人と人の関係がちゃんと描ければ、別にどのジャンルでも書きたいと思いますが、拳銃とかカーチェイスの車とか、メカニックなものが画面に出ると拒否反応が出ますし、敵対する相手がたいがい暴力組織とかの硬直したルーティンが圧倒的に多いんで、苦手という前にアクションものは魅力を感じません」

「じゃ、この企画も本当はやりたくない?」

「いや、優作氏がハード一辺倒じゃなくソフトな一面も出したいということで、そのソフトなところを少しじゃなくハード面を上まわるぐらいに描く番外編を、――ということを黒澤さんから言われてますが。聞かれてないですか」

「ハードを上まわるってのは、君の聞き間違いだ。ソフトな面という君のとらえ方もどうかと思うが、いくら優作の言うことでもこちらとしては聞けることと聞けないことがある。優作なしではこの番組はやってゆけんが、なしくずしの妥協はしない。で、どんな話を考えてきた?」

「シチュエーション・コメディです、非常にシンプルな」

『探偵物語』DVD、Amazonより

 ミッション系の高校でクラス担任をしている修道女(シスター)が、ある朝早く、探偵の住む事務所を兼ねたアパートを訪ねてくる。寝起きを襲われた探偵は、パジャマをだらしなくはだけたまま下品なスラングを連発し、猥雑な俗世間を全く知らない永遠の処女風(シスター)を驚かせ、怒らせる。

 依頼は、教え子の女子高生がボーイフレンドと街で遊んでいる時につい盗んでしまったブランド物のハンドバッグを、警察を通さずに持ち主に返し、示談にしてほしい、というもの。バッグの中をあらためると、持ち主は国際線のスチュワーデス(キャビンアテンダント)と判明。その住所のマンションを探偵が訪ねると、スチュワーデスは既に殺されており、探偵も何者かに襲われて失神した。

 意識が戻った時、一報を受けた警察がすぐそこまで駆けつけており、このままではスチュワーデス殺しの犯人扱いされると判断、探偵はマンションから逃亡する。修道女と待ち合わせて、教え子を捜すことになる。あのハンドバッグの中身があやしい。いつ、どこで、どんな状況で盗(パク)ったのか、ボーイフレンドとともに吐かせる必要がある。警察が、探偵を割り出して手配し、包囲網が敷かれる。逃げて、教え子を捜す探偵、“殺人犯”との共犯者にさせられた修道女。

 やがて捜し出した教え子がとんでもない跳ねっかえりで、警察の追跡とは別に、マンションで探偵を襲ったと思われる謎の一味も追跡を始め、探偵、修道女、跳ねっかえりの教え子3名は、都内を逃亡、また逃亡。探偵の一策で謎の一味を誘き出し、接触暴力の場に警察捜査陣も呼び寄せ一網打尽。世慣れて俗にまみれた探偵と望まぬ逃亡をつづけているうちに、まるで嚙みあわなかった聖なる修道女が、最後に一瞬だけ探偵以上の俗に染まって心を通わせる。