まったく同じとは言いませんが、これと似たような現象が現代でも起きているのではないでしょうか。診断を欲する背景には、所属感と安心感を希求する心理があるようです。
いまでは発達障害という社会的に認められた枠組みに収まることで得られる安心感があるのかもしれません。保護され、手を差し伸べられて然るべき対象にもなっています。また、障害があるほうが付加サービスを受けられると思わせてしまうような、国・行政、発達障害者就労移行支援事業所からのメッセージの発信の仕方も多少問題があるように思えます。
自信のなさ、人間関係のモヤモヤの原因を発達障害に求める人たち
さて、話を森田さんに戻します。やはり彼も、
「ADHDじゃないと腑に落ちない。こんなに仕事ができないなんて、そうとしか考えられない。逆にそうじゃなかったら、どうすればいいのか……」
と話しました。
私は、どんな気持ちで職場で過ごしているのかを細かく聞き取りました。
人から見られていると思うと冷や汗が出てしまう、声をかけられるとミスを指摘されるのではないかと思いビクビクしている、目の前にある仕事をこなそうと考えるあまり他のことが抜けてしまっている――森田さんはそのように話しました。
やはりこころの状態が大きく影響して常に「あたふた」しているようです。そして、自信をなくしてしまっているように見えます。それで思うように仕事ができないのでしょう。
近年では自信のなさや人間関係のモヤモヤをも、発達障害が要因であると思う人が増えてきています。なぜなら精神科診断自体がそのように変更され(DSM-ⅣからDSM-5へのアップデートを機に、該当症状が6→5へ減少・発症年齢が7歳→12歳へ引き上げられる)、多くの人に当てはまるようになってしまったからです。
それに伴い、身近な困りごとの多くが発達障害によるものかもしれないと思わせるようなメッセージが至る所から発せられてもいるからです。